第9話  修平 カメラを矢田川に忘れる 

最近、ママから仕事の依頼が増えた。昨日は一宮のお客さんだった。

稲留さんに紹介してもらったのに、何もお返しをしていない。

それに茜のママにもお礼を言いたいと思っていたのだ。


そんな時、稲留さんから電話が入った。

まだ、午後一時だ、今夜の仕事の依頼かなっと思って電話に出た。

「ごめんね、寝てた?」

「いま、起きた所ですけど、どうしたんですか」


「うん、実はね、春樹に電話しても、まだ、寝ているのか電話に出てくれないし、

それで、上野さんに電話したんだけど、実は、私、今日は仕事が休みでさ、

朝から、千代田橋の下でアオサギを撮影していたんだけど、

そしたら、茜のママから電話があってさ、桑名の吉田さんって人だけど、

スナック茜に昨夜、スマホを忘れていったらしいんだ。

ママがそれを私に届けろって言うから、二つ返事でいいよって言って、

さっき、ママからスマホ預かって今、桑名へ向かっている途中、高速の中なんだ、

でね、ばかだからさ~、千代田橋の下にカメラを置いたままなんだ、

本当にばかだからさ~、カメラを片付けるのを忘れちゃったんだ。

まいっちゃった。大きな三脚にカメラを取り付けたままだから、

すぐわかると思うんだけど。ま~あんな所、誰も来ないと思うけどさ、

取られたら、六十万円ほど、損するからさ、

本当に悪いんだけど、取りに行ってくれないかな~」


「うん、わかった、取られたら、最悪だね。千代田橋のどっち側」


「ごめんね、アピタの裏側 千代田橋の西側に三角の公園があるよね、

そこから、下に降りていけば、すぐわかるから、本当にごめんね、助かるわ、

こんな時に春樹に連絡が取れないんだから

もう、寝ているんだわ、あいつ、参ったね、ごめんね、頼むね」

修平は本当に焦っていた。


玲香はすぐに車を飛ばした。玲香の家から千代田橋まで一〇分もかからない。

すぐだ。矢田川に着くと、確かに、川沿いに三脚とカメラがあった。

大きくて重い、さすが六十万円だ。それを担いで車に乗せた。

玲香は修平にすぐ連絡した。

「ありました。本当に大きくて重い。車の所まで運ぶの、大変でした。

でも、カメラに傷は着けていないので大丈夫です」

「いや、助かったわ、ほっとした、ありがとう、本当にありがとう、

今度、何かごちそうするから・・・なにがいいかな~」

修平のほっとしている顔が目に浮かんだ。

「カメラ、返さなきゃ、どうすればいいですか」

「本当だ!そうだね、後で取りに行ってもいいかな、本山のどこだっけ」

「じゃ、本山まで来たら電話ください」と言って、玲香は電話を切った。

4時を過ぎた頃、修平から電話が入った。どうやら、本山まで来たらしい。

「はーい、稲留さん、今、何処ですか?」

「今、猫洞通に入ったよ」

「じゃ、猫洞通2丁目を南に曲がった、一つ目の路地で私、待っています」

「わかった。すぐ着くと思うよ」

 玲香は、すぐに通りに出た。白いクラウンが目の前に現れた。

 玲香は自分の車(マツダ2)の横に誘導すると、修平が車から降りてきた。

玲香が車からカメラと三脚を出そうとすると修平が自分で取るからと言って、

自分の車にカメラを載せ替えた。

「ありがとう、助かったよ、私の宝だからね、なんで、こんな大事なもの、

忘れたのか情けないね、無かったらどうしようと思った。はぁ、よかった」


「稲留さん、カメラより、ママさんの方が大事なんですよ」


玲香は修平の照れた顔を見て、間違いないと思った。

「いい車、乗ってるね マツダの車か、かっこいいね、赤がいいね、

あれ、足立ナンバーだね」

「去年、東京から名古屋に来て、そのままなんです、まずいですか」

「来月、車検だから、その時でいいんじゃないかな」

「今日は本当に助かったよ、ありがとう。上野さん、今から仕事だね」

「 はい、いやだけど、仕事です」

「じゃ、今夜、22時頃、呼ぶわ」

「それって、あかねに行くんですか」

「うん、吉田さんから預かった物があるから、ママに渡さなきゃならないし、

なんか、食べ物だから、早く渡さないと腐ると困るからね」

 玲香が覚悟を決めたように、1オクターブ高い声で言った。

「私も連れて行ってください、ママにお礼を言いたいし・・・」

「会社は? どうするの?」

「私、今、風邪をひきました」

 わざとらしい咳をすると、スマホを手にして、

修平の目の前で会社に電話をかけた。係長が出た。

「すみません、上野です、今、起きたんですけど、体調悪くて・・」と

言いながら咳をする。

「風邪かな、無理しなくていいから、ゆっくり休みな!

病院へ行った方がいいよ、お大事に!」

 玲香は修平に、舌を出して笑った。

修平の車で一度、修平の家に行くと、車を車庫に入れて、


そこからタクシーを拾い、二人は錦に向かった。

修平はタクシーの中から、ママに電話をした。

「今、タクシーで向かっているけど、まだ、早いかな」

「私も今、向かっている所、あと、5分もあればつくから」

「こっちはもう少しかかるかな、

吉田さんから真空パックのハマグリ預かっているし、

それから、上野さんが来たいって言うから、連れて来ちゃった」

「そう、上野さんもいるのね、楽しみにしてるって言っておいて」

ママの声が筒抜けだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る