第6話 あかねの思い

     あかねの思い 


午前1時半、修平は茜に近づくとママに[到着]とメールを入れた。

しばらくするとママが修平のタクシーに乗り込んで来た。

修平はママを泉2丁目の自宅に送り届けるとそのまま会社に帰る。

これが日課になっている。

つまり、1時半頃、修平の車にお客さんが乗っている時は、連絡を入れないので、

ママは歩いて帰る。ママが早く終わった時は、[帰る]と一言

修平にメールすればよい、また、お客さんが長居して遅くなる時も

[むり]と一言メールすればいいと決め事をしているのだが、

あかねは、早くお店を閉めた時でも1時半まで待った。

マンションまで歩いても十分もかからない距離、

今日などは午前0時には店を閉めたので、歩いて帰った方がよっぽど、

早く帰れるのに、1時半になるまで待った。

最近、修平から[到着]のメールを待っているのだ。

あかねは修平から一ヶ月の日程表のコピーを受け取っていた。 

つまりこれを見れば、今日は仕事か休日かわかるのだ。

たかが、十分の楽しい空間。あかねにはとても大切な時間になっていた。


     玲香 茜の仕事依頼 五月


  春樹と知り合ってから、もう、半年が過ぎていた。

春樹とはいつもすれ違いで、メールでのやり取りはしていたものの、

なかなか進展がない、実は、玲香は春樹の事が好きなのである。

春樹にその気があるのかどうかはわからないが、

春樹から言い寄ってくることはない。といって、どこかに誘いたくても、

休みが合わない、時間も合わない。

殆んど、メールで、【今日、バンテリンドーム、野球ありますかとか、

今、JRにタクシーが一台もいません、人がたくさんいます】など、

情報収集のメールばかりなのだ。仕事中に待ち合わせて、

団欒を囲むなど、春樹は全くしない人なのだ。仕事は仕事と割り切っている。

ホテルや駅で待機する事を嫌う。

【流してお客を拾えなければ、あきらめがつくが、

待機して売り上げができないなんて、仕事をしていないのと同じだ】

これが口癖である。なので、なかなか会えない。

玲香は少しイライラしていた事もあって、今までは昼の勤務だったが、

夜勤務に変えてもらったのだ。つまり、春樹と同じ時間帯になった。

新人の時はすぐには夜勤務にはなれなかったが、

半年も過ぎると希望の勤務の許可がおりたのである。

夜勤務に移ったある日、玲香はいつものように街を流していると

修平さんから仕事の依頼がきた。

「上野さん、今、大丈夫かな」

「はい、どうされたんですか」

「悪いけど、桜通り大津のファミマ、わかるよね」

「ハイ、松屋の隣のファミリーマートですか」

「そう、ここに来てほしいんだけど、今、どこにいる?」

「今、住吉です」

「じゃ、5分もあれば来れるね、待ってるから」と、言うと続けて、

「私の車の前に着けてくれるかな、

トヨタのお客さんだから1万3千円は出るから、頼むよ」

「はい、すぐ行きます」玲香は嬉しかった。

 玲香は修平の前に車をつけると、

ママとホステス2人がお客様を4人連れて出て来た。

玲香の車には、年配の男性一人が乗った。

 ママらしき人が、助手席のドアを開けると、

上野さん、この方、大事な方だからお願いねと言って、チケットを渡してくれた。

そこにいた全員が、乗ってきたお客様にお礼を言うと頭を深く下げている。

玲香はお客様の指示どおり、自宅までお送りした。

そして、降ろしてすぐ、玲香は、修平にお礼の電話をした。

「稲留さん、ありがとうございました、助かりました、また、お願いします」

「わかったよ、ママに仕事を回すように言っておくから・・また、頼むね」

 それからは、ママから直接、メールが入るようになった。

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