沈みゆくあけぼの

 地上へ出れば朝焼けがはじまっていた。

 夜の帰り道は、少年少女三人であった。

 帰るところ、あの三角の乗った塔である。

 昇ってみれば、澪伽の待っている。

 座りこんで、扇でべぇっとやって、日の出を背に。

「事情もろもろ邦可さんから聞いたよ」

 処分される手前でよかったね、と女咲へやさしかった。

 女咲の鼻ではぁと笑う。

「あんたなんもしてにでしょう?」

「根回しはしていた」

「臆病もののでまかせだねぇ」

「信じる信じないご自由に。けれど、なんで君のすぐさま処分されなかったかな?」

 こう訊かれると、ちょっと荒く頭の掻いた。

 こんど葦ノと、幽冷亭へ扇の女絵の視線だった。

「君らときたら、世話になったね」

「まぁ、私も楽しかったので」

「俺のもう振り回されるの勘弁だ」

「ゾゾロくん、いいじゃないか。葦ノさんとここまででしょ?」

 葦ノ、少年と目のあわせて互いわからない。

 すると澪伽の扇とじてしまって気軽い。

「だって約束だよ。成仏するんでしょ?」

 あぁ、と当人すっかり抜けていた。

「教えてくれるの?」

「もちろん、約束の守る。なにより精霊なんて大噓で、邦可さんの騙しきれないよ」

 証拠隠滅の早いに越したことない。と澪伽みしった風であった。

「邦可さんと仲のいいの?」

「いや、同期でね。向こうなら僕を嫌いさ。僕としたらどうだっていい」

「悪い人でもなさそうだけど」

「むしろ善良過ぎさ、弱者でも勇敢や義理のないの嫌いだから」

「それはわかった」

「彼女のここら管轄しているのも、上の方針蹴って上司なぐったからだから」

「あれだけ規則っていうわり、気持ちいい人だった」

「ふたつの規則じゃ生きていきにくいのさ。自分と組織の両立なんてかみ合いっこない」

「どっちか潰していかないとって?」

「君や、ゾゾロくんじゃあわかりっこない」

 わかる必要もない。そうまだ暗い空の仰ぐ大人の、まさに消え入りそな星影みつめた。

 それから一拍置いて違った明るい顔の戻ってきて、

「さて、成仏の作法おしえよう。僕も別の霊から聞いた噂だけど」

 すると幽冷亭から、引き止めるよう肩の持たれる。

 疲労もあってか、すこしぐったりした手であった。

「いいのか?」

「戻るべき場だし」

「さまよっている奴なんて腐るほどある。俺だって」

「あなたの違う。ちゃんと生きている」

「だったらお前だって」

「私の生きることへ憧れているだけ、もう夢のおしまい」

 きっぱりとした性質の含む言葉だった。

 疲れた手のひかれた。

「わかったけど、いちおう忘れるなよ」

「なにを」

「たった一日でお前は多く人を生きて帰らせたんだ」

 涙ながす手前のあたたかいものの広がる心で、葦ノおもわず微笑む。

 踏みとどまって涙のださなかった。

「ぜんぶ私のためだよ。そしてこの約束も私のため」

「そうかよ」

「ありがとう、幽冷亭。約束の果たしてくれて」

 もうしぶとく輝いた一等星も尽きた。

 朝の昇ってくる。

 三角のうえで四人とも穏当すこしばかり静かになった。

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