血の舞いちる鎖

 一室の広いところで対峙し、幽冷亭からしかけた。

 拳の大振り。

 邦可の難なく頭の逸らすだけ。

 不発した拳のお返しで、脇腹にフックの入る。

 そこから右の二撃。

 左の横殴り。

 潜り込んで右アッパー。

 この連打またたくうちであった。

 幽冷亭の顎から突き上げられて、ぶっ倒れ顔の腫れぼったい。

「ことここに及んで、手抜きなぞ望まないだろ?」

 邦可そう構える。

 鼻血またたらり。

 なお膝の立てた幽冷亭とて鼻血であったも、意味合いの違った。

「これじゃ、一方的だよなぁ」

「あとすこし条件の加えるか?」

「これより譲歩なんざぁ、あんたへ失礼だよ」

「なかなかどうして丈夫だな」

「あと一方的だと言ったが、お互い生きているってのは厄介だろう」

「気づいていたか」

 再びのカウンターの恐れなく、おなじ殴りかかり。

 おなじゆえ、また逸らされる。

 と思いきや、その足取りたら崩れた。

 むしろ当たりに行くようになった。

 幽冷亭の拳、わずか彼女の肩を掠りかかる。

 退く邦可よろめいて、その顔色たら褪せていた。

 鼻から垂れる血の赤でより、その蒼白のめだった。

 気味の悪い大粒の汗すぅっと病んだ皮膚つたい顎さきへ。

「もうすこしやれると思ったが」

「そりゃ、そんだけ鼻血やってりゃ貧血にもなるだろうよ」

「こればかり体質でな」

「わりぃけど、命がけなんでな。手加減なしだ」

「いいじゃないか」

 血の気失せているくせ、溌溂なるニヤつきだった。

「ようやく勝ち取るにふさわしい勝負じゃないか!」

 一瞬であった。

 ひとつ踏み込んだだけ邦可の、幽冷亭まで迫っている。

 迫られたがわ、迫られたことの遅まき気づく。

 ハッとなるころ、バネが弾けたような拳の飛んでくる。

 顔面で、とても単純うけた。

 そこから間断ない打ち込みであった。

 眺めるばかりの、葦ノ、見ていられなく歯ぎしりだった。

 締めのストレートまでどうしようもなく食らう。

 幽冷亭、倒れた。

「確かに体質ゆえどうしようもない。ゆえなれるものだ」

 葦ノの駆けたくなった。

 だがここで鉈の横やり。

「あんたいってどうすんの?」

「やっぱりよくないかな」

「幽冷亭も、あんたも覚悟ってやつなんじゃない」

「ちょっと難しいかも」

「もしもなったら私のやってやるからさ」

「倒せるの?」

「邦可ってのは貧血なってから本領ってわけ。こうなったらでたとこね」

 言う女咲の口もとで、命がけへ感興する笑みのあった。

 これの見て、駆ける気もおさまった。

「狂っているね」

「まぁ、生きるってそういうことでしょ。ほら見なよ」

 その嬉々と輝く女咲の視線なぞっていく。

 すると背から丸くのろのろ起き上がる幽冷亭だった。

 膨れたなかにも笑う表情の垣間見える。

 葦ノこれへ笑い返した。

「ちょっときついなぁ」

「私の血の渇くまでやるという算段か?」

「いや、当初そうだった。ただこっちの意識からまず尽きるだろうよ」

「となれば降参か?」

「ここまでやってちょっとでも生きれるなら賭けるさ」

「では、女咲も呼ぶか?」

「もう関係ないあいつの巻き込むなんぞ癪なんだよぉ」

「では妥協ないまま負けるといい」

「妥協ならするよ」

 とたん、さっきから目のあっている葦ノに、

「わりぃけど葦ノ、突っ走ってこい!」

 そう言うなり幽冷亭とて邦可向け走り出す。

 わけわからないも、葦ノの走りだした。

 ようやくやりたいようやれた気分であった。

 幽冷亭の勢い任せ、突っ込む。

 あっさり横に避けられる。

 なおまっしぐら。

 ちょうど葦ノへかち合う。

 そこで幽冷亭たら踵の返した。

 ただ慣性で、葦ノへ背の向けただけ倒れかかってくる。

 これへ葦ノようやくわかって、その背へ触れて突き返す。

「触っただと!」

 邦可ありえなくおどろき、目のはみ出そうなほど丸い。

 突き返された幽冷亭の拳かまえていた。

 されどおどろきと、意想外だった拳、ついで貧血の作用もあったろう。

 邦可なんら対応なく、頬の殴られた。

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