星影ない悲しみ

 薄暗かったといえ、ホテル内部で地下らしい戸の気配なかった。

 隠れていたり、見落としていたりでない限り。

 また邦可の一階、受付方向より出てきた。

 どちらかって外だよね。

 ともかくホテルと塀の囲ったあいだのまわる。

 玄関まえ迎えうってきた霊たち、総じてのされていた。

 この霊ら足跡よう追っていけば、幽冷亭へであえた。

 虚無僧ふたり、あっけなくのびていた。

 のびているふたりもたせかけている小屋のあった。

 小屋の扉のまえ、幽冷亭は鉈かついでいた。

「おう、みつかったぞ」

 どうやら小屋のなかで、覗くと地下への薄きみわるい階段である。

 ところどころ目ビリした電灯の並び。

 それが欠けたりついたりしながらも斜め下へまっすぐつづこうとしている。

 シミュラクラ現象でそこかしこある染みの嘆き顔ずらり。

「こいつらから鍵も取った。行ってみるか」

「それしかないっぽくってね」

「なんかあったな」

「下りながら話そう」

 一段一段ふかくして、葦ノ、あらましを語った。

 それら総括で不貞腐れた口もとし、

「あんな聞き分けない人はじめてだよ」

 と邦可を評した。

「同族嫌悪かよ」

「そうかな? ああまでつんけんした石じゃないでしょ」

 ふしぎに首の傾ぐ。

 まえで幽冷亭の肩まで落とすため息はぁ。

「あっちの重い石だと、お前の尖った石ころだよ」

「石ころ?」

「向こうの蹴ったって動かねぇ。こっちの蹴ればどこ着くやらわからねぇ」

「軽はずみってこと?」

「なんにせよ両方とも、そう易々と壊れねぇし、決まったままだ」

「もしかして褒めている」

「聞きようは自由だ」

「じゃあ、あなたどっちなの?」

「俺はそのあいだぐらいで、蹴りやすい」

「そうかな」

 幽冷亭もまたズレのある感じのした。

 ちょうど話果てるに段の尽きた。

 扉のあった。

 堅苦しく重そう。

 しかし取った鍵の刺してしまえば素直だった。

 なかから差し込んでくるまともな明かりの、白く眩く覗いてくる。

「もしいるとして、このさきしかないね」

「もう無人だと思うけど、用心しろよ」

「というか、そっち腕だいじょうぶ」

「もう固定具も外した。ちょっと違和感だがな」

 肩のひとまわし、そっちは?

 訊かれた幽霊、苦笑ひとつ。

「嫌味なの? もう心配する体ないんだけど」

 少年とて、すこし微笑み、

「わりぃ、お前わかりずらいんだ」

 まるで生きているみたいでなぁ。とやさしかった。

 ふたりして明るく開いた向こうがわへ、踏みだした。

「さて、不良少女をお迎えに」

 葦ノそう不安なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る