あぶく銭おっことして

 この街で不可思議な塔のある。

 塔と言え、ただ真っすぐな鉄の棒で、空突くよう高くしこの周りへ螺旋階段の巻いたもの。

 巻いたうえで三角の平場のある。

 なんでも気象学で扱うとかで、四方、金網から囲っている。

 囲いへ立ち入り禁止うるさいほど貼ってある。

 不良、幽冷亭のかんたんにこれ昇って越えた。

 葦ノうるさい立ち入り禁止の、幽霊でするり抜けた。

 ふたり螺旋昇る。

 昇る連れ快晴でも風きびしく唸ってごぉおおお。

 不良の風でどこやかし押されたり、引っ張られたりして嫌そう手のかざす。

 幽霊やはりするり、なんでもなく軽やかである。

 なんならば数段うえで、遅いなぁ。

「お前みたく時空ほっといていい体でないんだよ」

「肉体の権利であり、義務だねぇ」

「嘲笑っているんじゃない」

「それよかこのうえだれぞ居るの?」

「ここらで悪霊退治やってる連中率いているのがひとり」

「やはりあなただって、そういう人なんでしょ」

「こういう体質で調べまわられているだけだ」

「どういう人?」

「表向き学者だそうだ。怪しいが」

「どう怪しい」

「怪しい建もんのてっぺんでいるのだ。怪しいだろ」

 ようやっと同じ段まできて、こんど葦ノの一緒に昇ってやる。

 さて段の尽きて、三角の鉄板の上までくる。

 息こそまともながら、幽冷亭の風でぐしゃんぽな身なり鬱陶しく直した。

「思わぬ訪問者だ。茶の出せないよ。ゾゾロくん」

 三角の角ひとつでそう言う男のあった。

 胡坐かいて座っていて、細身で青白い血色せいか笑っても本心そうでない。

 片手間で黒白の扇ちょっと開いたり閉じたり。

 ちょっと白交じりの長髪を扇さきで掻いた。

 皺とシミの濃い白いシャツや、七分丈のズボン、裸足。

 こうありあわせの服のさま眺めて葦ノぱっと思いついた。

「世相疎い引きこもりって感じだ」

「口に出す奴だなぁ」

 ゾゾロごちる。

 むしろ言われた当人うれしく高笑い。

 笑え笑え響くまえよく風でさらわれた。

「せめて唯我独尊といってくれよ。あとこれほど開けた部屋でひきこもりかい?」

「じゃあ世界に引きこもっている」

「だったらば人類みなそだろ幽霊のお嬢さん」

「へぇ、聞こえるし、見えるんだ」

「触れれないけど、そこのゾゾロくんみたくには」

 あ、ただ、と扇いっぱいまで開ける。

 そこ黒い筆で描かれた女の絵であっかんべとした顔あった。

 そっと一振り扇がれる。

 葦ノ、風で押され尻もちして驚く。

 あたり舞っているごぉおおおでなし、まるで確かな人の手でぽんと押すよな異質の風。

「こうやって風で触る」

 尻もちのまま、おおっと感嘆。

 がてん膝叩く扇のぴたりとじられる。

「どうやら面子上、学者でなく亡霊葬ぼうれいそうの指揮官、この澪伽寸陀みおとぎすんだへごようだね」

 風のかき混ぜるよう、かすかふしぎな塔の揺れたけがあった。

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