嫌な会話

 眼下で広がっている街の、荒れた波のようごちゃごちゃ。

 車座して要件の伝わって、澪伽また扇ひらいてとじて。

「そんなこと造作もない」

 葦ノあんがい楽ちんで、拍子抜け瞬き。

「ほんとう?」

「いや摂理で言えば、仏さまから迎えられるのあたりまえさ」

「じゃあ教えてよ」

「ここ交渉だよ」

「では、こちらの幽冷亭から財布で」

 無作法で寝っ転がろう幽冷亭、がなった。

「なぜ他人の小遣いだ」

「どちかっていえば、ゾゾロくんで払う」

「だから小遣いなんぞ、たかだか」

「君の力添えのほしい」

 幽冷亭だんまりのち、察したよう舌鼓。

 まだ葦ノわからない。

 風めっぽう吹いて沈黙の和らげよう努めるよう。

 たまらなくなって、わからない人が聞く。

「なんの力添え?」

「ちょっとした怨霊退治でね」

「あの火玉の?」

「見たのか、なら話の早い。もうひとり派遣してるけど不安でさ」

「新人とか?」

「いや一番やってくれるひとなんだが、近ごろやけに風の回り方が」

「風?」

「僕は気流からいろいろ占えるのだけど、どうも逆立ってて怪しんだよ」

「それで幽冷亭か、ただのちんちくりん高校生でいいの?」

 余計なひとことか、なぜそうこきおろされているか、あるい両方か。

 どれかでいちべつ睨みのあった。

 葦ノ話つづき聞きたさ、ともかく睨みの無視した。

「ゾゾロくんの実績とくれば折り紙付きだ」

「どういった武勇伝で?」

「むかし百もの怨霊に身一つで、撃退している」

「凄いの?」

「怨霊ひとりでも、常人の僕らでは骨折りもんなんだ」

「さっきの風とか」

「あぁ、道具で見たり聞いたりちょっと触るまでなんとかならんでもない」

 景気よし扇開いてあっかんべ。

 それからひとおりひとおりなんとなし閉じていって、

「けれど怨霊の厄介なので、生者のその姿や力へ触れれば吸い取られる」

「あぁ、あの火玉もそんなんしていたっけ」

「だからひとり相手せよ、ほんとう神経すり減らすのだよ。爆弾解体のきぶん」

「幽冷亭のだいじょうぶと?」

「そう、この厄介くらわないし、なんなら単純な殴り合いまで持ち込んで気絶までさせれる」

「気絶さしてどうすんの?」

「僕らで結界張って、まとめて獄門へ帰す」

「おいしいところのいただく」

 ここで不遜かわらぬ幽冷亭から怒ってある。

「毎度いいよう使いやがて」

 青白さから力ない暗い顔し、扇さいごまで畳んだ。

「世界の除霊師らへ報告してないだけ、優しいだろう」

「人体実験されないなんて、人としてあたりまえだろ」

「君は過去に交通事故してから、きっと半分ほど幽体なんだ」

「さんざんっぱら聞いたことだ」

「じゃあ、人としてしゃんと生きているのかな?」

 答えられないで歯ぎしり。

 葦ノ、ここで沈んで泥沼なっていく言い合いへ拍手ひとつぱちん。

 ちょうど風よわくよく響いた。

 拍手で雰囲気ひっくり返して、あっけらかん微笑む。

「なんかそういう脅しあってけちつけあってんの嫌だな」

 なんとかなりませんと素直で尋ねる。

 澪伽うんとうなずく。

「まったくだ。では葦ノくんだっけ、君のことへもどろう」

「それ、もういいや」

「おや?」

「どうせ私しゃんと生きていないし」

 でもだからこそ、と張り付いていた仮面だとわかるよう微笑みの消し、

「私はこの人の生きていないなんて思わない」

 こうむかっ腹だった。

 ではと言うなり怒った足早で、やがて段のおり始めた。

 降りる音なく、風ばかり。

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