第三章 つぶらな枷

おおらかな闇

 闇の踏んで歩いていけば、三階あるこじんまりしたホテルのあった。

 近づけば、ホテルだった抜け殻である。

 霊へ連関するだけ、どこも抜け殻めいてくる。

 幽霊や、そういう人の溜まりたがるのかな。

 鉈片手で葦ノは考えて、夜風ばかりの来訪し抜けていく廃墟になおむかう。

 となりで幽冷亭の足も慎重で、内緒になっていく。

「来てみたが、なにかし手があるのか?」

「いや、まったく」

「亡くなると考えまで亡くなるのか」

「生きているよりか煩わしくなくって不便だよ」

「向こうだってそう数のあるわけじゃないらしい」

「じゃあともかく女咲へあってみよう」

 鎖ででたらめに巻き付かれた門前へ立つ。

 門を起点としぐるり塀かこっている。

 いかにも無人といった体裁である。

 闇だけ溜まっている。

「人なんているの?」

「澪伽いわくどこでも人手不足で少数だとよ」

「それにしてもじゃない?」

「地下への入り口のあるらしい」

 葦ノ、鉈のその場へ置く。

 それから門のするり抜けてしまう。

 門の隔て、生身の人あきれ、溜息しつつ鉈のひろいあげた。

「こっちは片手の不自由なんだぞ」

「こういうのって霊への防犯とかないの?」

「さぁな。地下ならあるんじゃねぇか」

「それかちょっとした心霊なら、対処できるって魂胆」

「少数精鋭ってわけだ」

 言いながら幽冷亭の鉈投げ入れる。

 それから鎖つたって門の越えた。

 闇で塗り固められた玄関だった風穴が、呼び込むようびゅうぅっと鳴いた。

「ちょっと怖くて面白そう」

「ほんとう能天気だな……」

 どうやら不味い。幽冷亭のすばやくふり返った。

 葦ノもつられてみれば、幽霊の五人ほどいた。

 とても穏やかでなく、襲うつもり構えている。

「怨霊でない、ただここらほつき歩いている霊ぽいな」

「それで人員不足おぎなっているって?」

「幽霊の手もかりたいってか、物好きな霊ってのもけっこうあるもんだ」

 お前さき探しにいけ。幽冷亭まっこうから受けてやろう堂々立ち。

「だいじょうぶ」

「鉈はあとから渡しに行く」

「斬りつけたらダメだよ」

「ただ約束としてとっとくだけだ」

「わかった。信じるよ」

 葦ノなんらためらうことなく、闇へ立ち入る。

 後ろで幽冷亭の足音も、もはや豪快であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る