足あとの覗くひとり

 去ってしまった女咲のてがかりのため、三角の塔へもどった。

 澪伽の待っていて、暗いなかランプみつめていた。

 明るくなった顔どうやらやつれていた。

 やつれていて笑うから悲痛であった。

「おかえり」

「女咲、どこかいっちゃった」

 葦ノいつも通り率直であった。

 となりで幽冷亭たら、だいじょうぶな腕へ鉈ぶら下げている。

「そうらしいねぇ。僕へも亡霊葬の本拠から報告と、監督不行き届きのお叱り」

「どうなちゃうの?」

「処分だろうねぇ」

「幽霊退治のしなくなる」

「さいあく存在、霊すら抹消される」

「なんでそこまで」

「霊だけならまだしも、いちおう一般のゾゾロくんまで及んだからさ」

 みられた幽冷亭の黙っている。

 暗いなか、表情わからない。

「あれって私の怨霊なるか試してただけ」

「心温まる見方ではある」

「すくなくともそう弁明すれば」

「しないだろうね」

「なんで?」

「その理解でいけば、君の怨霊たりえる可能性うたがわれる」

「だから私の怨霊じゃないって」

「それ証明の難しい。疑わしきは罰せ。君ついてさっさ処分してしまうよ」

「私の守るため黙秘するってこと?」

「君の感じたことの真実なら」

 地へ広がった莫大な闇に夜風ひとつ、さびしい。

「部下だから助けたいってならないの?」

「まぁただひとりの部下だけど、助けたいより怖いかな」

「なにが」

「彼女のつかまえた人、見た?」

「背の高い、白髪の女の人」

「あれぞ僕の上司でここらの代表、丹衂邦可たんじくほうか。平たくいって堅物でおっかない」

「女咲で勝てない」

「難しいだろうねぇ。あと負かしても組織から追われて逃げきれない」

「で、つかまるしかなかった」

「彼女の暴力的で、刹那的だから」

「ほんとうあなたって、冷徹だよ」

「大人だと慰めてほしいところだ」

 あとさぁと、澪伽のちょっと肩の落とした。

「君なんで、斬ってきた人の心配してんの?」

「心配でなくって、ふしぎだったから興味だよ」

「じゃあ、興味も尽きたろ。約束の果たそう」

「約束って?」

「成仏」

「あぁ、忘れてた」

 そういや、そんなんあったな、と心の底ですら思う。

「でもちょっと待ってよ」

「怖くなった?」

「そう怖くなった」

 葦ノの笑って返した。

「ならここで帰る?」

「あと一日まってよ」

「いいとも。めいわくかけたしね」

 そうして葦ノひとつひとつ塔の降りていく。

 なにも起きそうにない黒い凪のうち、降りていく。


 降りきって、立ち入り禁止の抜けた。

 さてと、どうやって探そう。葦ノ、考えて難しく深刻になっていく。

 それの晴れて虱つぶしだと思った。

 ここでなにやら降ってくる。

 あの錆び切った鉈である。

 あとから、幽冷亭まで金網越えて降ってきた。

 片腕こと固定具で吊っていた。

 まったく昇りにくいったねぇと愚痴ってから、

「本拠地の場所ならわかっている。近づくなって言われてたからな」

「なんのこと?」

 葦ノきょとんと演じる。

「下手くそが」

「私、成仏するため心の整理で大わらわ」

「どうせ、あの女の助けに行くんだろ」

「なんで、そう思うかなぁ」

「俺もわかんねぇからついでで訊きに来た」

 まっすぐ見られて、もはや降参だった。

「生きているだけだと生きられない人のいるんだよ」

 幽冷亭の、鉈ひろいあげた。

「あの人はきっと生きるために戦っている」

 そしてこの鉈、葦ノにさしだす。

「そんな人から奪っていいもののあるはずがない」

 受け取り、その古びた道具の撫でた。

 粗い感触で汚れていて、それこそ人工物でないやさぐれたものの宿っている。

「つんけんどんされたって、私だって生きるためにやっているんだ」

 葦ノ、そう覚悟した。

 あらためて幽冷亭に向きなおる。

「でもあなたいいの?」

「あぁ?」

「もし幽霊へ触れれることばれたら」

「あぁ、その心配で声かけなかったのか」

 居るのおおかた人だ、なんとかならぁと少年やぼったく言う。

「でも腕は?」

「俺もちょっと治癒に自信ある。どうせ、小一時間すりゃうごく」

「でも女咲は嫌いなんでしょう」

「善良だなんて思わねぇ。ただ借りの返すだけだ」

 深く訊くまい。

 こうして、夜の続く空のもと幽霊少女と、不良少年よる奪還戦のはじまった。

 鉈と拳ひっ提げ歩むふたり。

 このまわり、宵闇はかっこってただじっと怪しくみつめていた。

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