居場所のある命

 落っこちてしまって、まっくらやみ。

 幽霊って、人並み重力あるんだ。思って葦ノののんきだった。

 それから、ともかく逃げろってことか。と幽冷亭こと推測した。

 禁止の金網抜け、なお塔から離れていく。

 離れ、幽霊くせ夜目のききだし、ちょっとふり返る。

 螺旋階段ところ鉈の手すりぶつかったか。

 鉄互いぶつかる火花カンと甲高く光った。

 そこでふたつ人影、ころげ落ちるよう争っている。

 助けもどろう魔のさして振り払うよう走る。

「信じるだけほど悔しいものもないなぁ」

 助けの代わり愚痴るだけ苦笑い。

 ところどころあった灯りも眠っていく。

 街たら夜へ同化し、まだ残ったすくない常夜灯でかろうじて消息つないでいる。

 宛所なく闇うち走って、いつまで走っていいか疑う頃合い。

 足のとめた。

 あかり点々とした四辻で、真上のあかり蛾からとりつかれている。

「よく考えれば、暗いんだから追ってこれやしない」

 ふぅっと大きな影の過る。

 すばやく反射でそちら首まわす。

 きっと蛾の陰だろう。

 そうおちつく。

「葦ノさんよぉ、幽霊って物理じゃないんだよねぇ」

 紛れもない女咲の声がふってくる。

 降ってきたほう民家の屋根の角で、もうなにもない。

 嬉しく興奮した声だけどこやかし響く。

「私の亡霊なら百とくだらず斬った」

 すばっしこく気配うごめく。

「そうするうち、わかるようなったんだ」

 見てももういない。

「霊の臭いってやつ」

 あと追いにも探しながら、なけなし気丈になる。

「私ってそんな臭い?」

「血なんてでないも、私の鼻にゃあべっとりしてる。あんたの背中の血」

「こんかい不意打ちしないんだね」

「弱さへ合わせる主義でね」

「どうも親切に」

 さらに親切で脅しもこれくらい止してやろう。そう響いたあと、ひとつの道から女咲姿。

「しかし見捨てたといえ幽冷亭ついて気にならんのなぁ」

 あかりへ照らされ鉈の肩かつぎ、斬る快楽のぞかせる白い歯だった。

「その鉈、錆びてるだけで変に汚れていないじゃない」

「いま知ったことだ」

「それとまったくの幽霊なったって、あの人きっと私の救う」

「思いたきゃ思っとけ。亡くなったやつの思いなぞ届かねぇ」

「ここまで追っかけてきたあなたへも、なんも届いてない?」

「ああいや、こういう。生きたいという幽霊こそ生者への冒涜だろうよ」

 また刃の向けられ、葦ノつぎ駆けだされるよう備える。

「ぶざまあがき飢えくるしむこそ生きる人へとあたえられる祝福だ」

「で、あなたも飢えくるしんでいるの?」

「私の生きている感触ほしいだけ、腹の減るに同じく。命の使わなければ痩せるだけだ」

「それなら私の亡くなってみて、わかったよ」

「人生なんら解決しずおわる」

 気づくの遅かったな、と女咲いい終わらぬうち瞬くま踏みこんできて鉈の腹裂くつもり。

 おもっていた素早さの数段うえであった。

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