第二章 失った数

居場所のない星

 亡くなれば幽霊となる。

 さらに幽霊から亡くなれば果たして。

 ゆうれいのゆうれい。

 だったらほんとう亡くなるってなんなんだろ?

 どんな夢ともつかないも、そんな思いだけ葦ノなか残っていた。

 目の覚めてめいっぱい星空だった。

 わぁ綺麗だなと重たく体の起こした。

 幽霊なくせ、まるで肉体あるよな重み。

 あたり見まわせば、どうやらあの三角形のうえである。

「目の覚めたか」

 そばで幽冷亭ものしずか座っていた。

 ちょっと遠くの一角で、明るいランプおいて澪伽わらっている。

「よかったね、葦ノくん、軽傷だ。幽霊の治りたら早いから、だいじょうぶ」

 あと別なうす暗い角、あの鉈もった女のそのまま立っていた。

 夜景みおろし振り返ってくる。

 あいかわらずつまらなそう沈黙。

「お前ちっと謝れよ」

 あんまりだんまりだから幽冷亭の怒鳴った。

「なにあやまんのさ。命のやり取りへ命ない奴の出しゃばっていけないんだ」

「女咲、お前まえから解せねぇ」

「あの嫉妬狂いなら、私の獲物だった」

「けどいっぺんやられたんだろ」

「健闘したほうだね。物へまで影響する怨霊なんぞ初だったしな」

「だとしてあの場でどうみたら葦ノみて、敵だと思うんだよ」

「平手打ち喰らってたろ。それに命あるかないかの奴は、命ない奴の味方だろ」

 あんただってそうじゃね。そう命あいまいなふたりへ冷笑。

 話だけだと我慢ならなくなったか、幽冷亭ずかずか彼女まで詰めよろう。

 しかし寄らせず、葦ノその怒った拳にぎってまた平手打ち。

「いてぇえ! なんだよ!」

「説明してくれる? ぜんぜんなんだけど」

「いやだから、お前のあの女からぶった斬りされたんだよ」

「あの人、だれ?」

 ここから澪伽あずかる。

「僕から言おう。彼女、夜零女咲やこぼれめさきちゃん、亡霊葬の一員」

「はっきり性格悪いよね」

 葦ノ、朗かでなんらためらいない正直。

 すると澪伽の首筋、いつのまか錆びた鉈の撫でている。

 澪伽ひや汗だらり、両手のあげた。

 持っている閉じた扇のふるえている。

 鉈の持ち主、つまらなそうだったの一転、獰猛で熱心な視線ぎらついている。

 灯の近くためか、この視線いっそう冴えかえる。

「あのちょっと女咲ちゃんなぜに僕?」

「指揮官さんよう。あいつぶった斬る許可のくれや」

「僕も約束のあってさ。あと怨霊でもないのに上司として許可ってねぇ……」

「そうか」

 鉈もうひと撫で。

「いや! けれど、僕もし斬られちゃうんなら黙認くらいなら……」

「ぐじぐじ遅いのでいい。もう私人でやる」

 汗くだった首より鉈の退く。

 なら端っからそうしてよ。解放され、上司のよりげっそり。

 女咲の葦ノほうゆっくりながら近寄ってくる。

 どうやらさっぱり背中治っているのに、歩いてくる敵意で痛みのぶり返しズキリ。

「葦ノといったね」

「女咲でいいかな」

「敵でいい」

「なんでそう敵意まんさい?」

「性格の悪いからだ」

「根に持つね」

「とっかかりなんぞなんだっていい」

 立ち止まって鉈こと目先まで持ち上げてくる。

「私な、命のやり取りのしたいだけなんだよねぇ」

「せっかく命あるんだから大事にしときなよ」

「ちがうな、大事ゆえ粗末あつかうのだ」

「いちおう私もう亡くなっている人だけど、空気読めない?」

「あんたから言われたくない」

 そりゃそうかもね。対峙に葦ノもなれないながら身構える。

 ここのふたりあいだ、幽冷亭の入る。

 で、幽霊ほうかばう。

「俺もこいつへ恩のある」

「こりゃ海老で鯛を釣るだぁ。私かねてからあんたをはっきりさせたかった」

「俺もお前の一発だまらせねぇと気のおさまらん」

 天体きらめくそのもとで、開戦であった。

 それでまず幽冷亭の葦ノこと突き飛ばした。

 突き飛ばされ、塔から落ちた。

 しだい地上の光のまれるつれ、眺める星の消えてった。

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