夕暮れて沈む

 夕焼けであたたかそな空気おもいだし、じぶんの影の長い。

 長いけれどしょぼくれている。

 葦ノずっとさまよっていて、生前の家にいけば泣いたり暗かったり。

 学校へよれば自席で白い百合のうつむいていて、ひまわりのほうがよかった。

 友人とてみな活けてある百合のようだった。

 どいつもこいつも私もしんきくさい。

 生きていないだけ、これだけ表が裏となっている。

 さかさま世界でいなくなっても転落していく。

 また広い車道へでて轢かれてみれば、つまらない。

 流れる車へ食いこみ、またたくうち車内いう生活のみえて、過ぎ去っていく。

 四つほど席のあって、たいがい運転手ひとりで作る顔もないようだった。

 きっといま自分そういう顔だろ。

 下手くそな鏡だなと瞳の瞑る。

 小石ぶつけたよな風の頭にあたった。

 ハッと風向かってきただろうほう窺う。

 澪伽の開いた扇ふって手招いている。

 気まずく近づいてみれば、向こうなんの屈託もなく笑っている。

 茜せいか顔色の悪しさへ緩和があって、ただ優しい人だった。

 あと立ち上がれば、背のあって手足の長くいっそう痩せて映る。

「葦ノくん、さっきのすまなかったね」

 往来はばからずしゃべってくる。

 ぽつぽつ独語いう不審者でも構わなそうだった。

「私のほうこそ」

「不謹慎かわりないさ。ああ広いだけのところ閉じこもっていたらダメだね」

「それだけのために?」

「君へ成仏のやり方おしえようとね」

 とうとつで、え?

「僕の約束まもる男だ。それでいて相互利益も重んじている」

「なんのこと?」

「寝耳に水かい? どこらへんから?」

「おおかたぜんぶ」

 なるほどなぁ、閉じた扇と手の打ち合わし勘案ぽく目のあっちこっち。

「君の帰ってからゾゾロくん、例の依頼うけたのだよ」

「なんで」

「彼の生きてもなく亡くなってもない、しかし生きている。君のそれへ気づいてくれたからじゃない」

 憶測だけど、と付け足した。

「聞いた話ながら、彼の小さいころ両親ふたりいなくなった」

「いっていた事故?」

「うん、その直後からしばらくうわ言いっていたそうだよ」

「うわ言?」

「なんで生きているんだろうって」

 葦ノふかく考えたく黙った。

「君の言動から洞察すると、君だって彼と似た考えなんじゃないの?」

 こんど答えにくく黙った。

「僕らなら仕事や立場のうえで人命こそ優先だ。君のどう?」

「私も生きていればそうだったかも」

 葦ノの俯いているところ夕陽差し覗こうとしてきて眩しい。

「いっぺん亡くなって見なければわからない価値観もあるんだろうね」

「生きている人へ伝えられないし、きっとわからないだろうけど」

「だとしたらいつか僕らも必ずわかるし、いま知ることでもない」

 ここで話行き止まりで、澪伽から引き返した。

「さて、成仏のやり方だけど」

「幽冷亭のもう怨霊たおしたの?」

「いいや、まだだけど」

「なら約束ちがってない」

「今回あまり結果へこだわってはいけないって判断だよ」

「なんか神妙だね」

「依頼したあとで、報告のあってね。例の優秀なのから」

「先に倒してしまったとか」

「けっこう派手にやり合って逃したそうだ。いまちょっと休んでるってさ」

「そうなるかもで幽冷亭へ頼んだんでしょ? いい検討だったんじゃない」

「どうもその子から聞いたところ怨霊どうやら彼との相性わるいようで」

 言いあぐねて、

「人手不足で援護むずかしい」

 それでも言ってしまえば、扇ひらけべぇえ。

「ゾゾロくん、やられちまうかもってさ」

 噓でしょ、思いの浮かんで口からうまくでない。

「連絡先しらないので止めようない。だから遺言ってことで君へ約束の履行を」

「あなたの助けてやれないの?」

「僕なら戦い向きでない、探すの主だから。それとまったき生者の命こそ大切だ」

「ならいま、彼ってどこに?」

 にわか責められるよう聞かれ、澪伽この強さでたじろぐ。

 逃れるよな思い出すよなあやゆやな視線して住所の言う。

「けれど、いってどうなるって……」

 こう中途で苦笑ごとぶつ切りなってかまわず、ともかく葦ノの走っていた。

 壁や家やの素通り、直線でそこまで駆けていく。

 人びとの生活まるで走馬灯よう過ぎれば、だれかかれといてほんとう生きていて笑っていた。

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