第8話真実《しんじつ》

あまりにもうつくしいおとこがいた。おとこ半生はんせいはあまりしあわせとはえなかった。まれたときからあまりにうつくしく、いたって普通ふつうかおをした両親りょうしんおどろき、最初さいしょよろこんだ。だが、自分じぶんにあまりにもていない。ご先祖せんぞかお隔世遺伝かくせいいでんしたわけでもないそのかおに、父親ちちおや本当ほんとう自分じぶんうたがしたのだ。母親ははおやは、けっして父親ちちおや裏切うらぎっていないとうったえ、遺伝子いでんし検査けんさ提案ていあんした。結果けっかは、無事ぶじ両親りょうしんともに遺伝子いでんし一致いっちした。うたがいはれ、このかおになったのは奇跡きせきだったのだと納得なっとくした。


あかぼうころからあまりにもうつくしいので、スカウトがモデルにしようと殺到さっとうした。両親りょうしんは、このうつくしさがのために役立やくだつのならと一つひとつのモデル事務所じむしょえら所属しょぞくさせた。するとまたた大人気だいにんきとなり、きゅう両親りょうしんもと莫大ばくだいなおかねはいってきた。れない大金たいきんがくらんだ両親りょうしんかせいだおかね使つかんだ。馬車馬ばしゃうまのようにはたらかせた。もはやと考えず、かねのなるかんがえるようになった。それをかんじたあいえるようになった。


そのまま大人おとな成長せいちょうしたおとこ両親りょうしん手切てぎきんわたしてえんった。仕事しごと仕事しごとつかれきっていたおとこは、ある程度ていどかねかせいだあと仕事しごと休業きゅうぎょうし、世界せかいたびするようになった。自分じぶんのことを本当ほんとうあいしてくれるパートナーをつけるために。


おとこのことをはじめて人間にんげんは、最初さいしょあまりのうつくしさにかたまり、数秒後すうびょうごわれかえおよがせる。そしてそのままっていくか、うつくしさにかれてすりってくる。いままで出会であった人間にんげんはすべてそうだった。


だれ真実しんじつあいをくれるのかからず手当てあた次第しだい性別せいべつ関係かんけいなくった。だが、おとこだましてかねっていったり、「こんなにうつくしい彼氏かれしてるわたしってすごいでしょ?」という自慢じまんのための道具どうぐにされ中身なかみ大切たいせつにしてもらえなかったりで散々さんざんだった。


真実しんじつあいつけることは出来できないのだろうか⋯。あきらめかけたそのとき一瞬いっしゅん違和感いわかんかんじた。おとことすれちがった一人ひとりおんなが、おとこかおたはずなのにまるで普通ふつうひとるように、かたまりもせずとおぎてったのだ。


とっさにおとこおんなうしろからこえをかけた。かえったおんな

なんでしょう?」

不思議ふしぎそうにくびかしげた。

「あのう⋯ぼくなんともおもわないですか?」

「ええ、なんともおもわないわ。」

そんなひとはじめてだ!おとこなんとしてもおんなとおちかづきになりたくて、おもってもみなかった、自分じぶん散々さんざんきたうれしくもないその言葉ことばってしまった。

貴方あなた一目ひとめぼれしたんです。」

その言葉ことばおどろき、うたがいのけたおんなも、おとこ必死ひっし説得せっとくつたわったのかなんとか友達ともだちになることができた。


おんな内面ないめんおだやかで気配きくばりができ、とても魅力的みりょくてきだった。だが不思議ふしぎかんじる場面ばめんもあった。はなしかければ気付きづいてもらえるが、わせのときおんなまえおとこても、本人ほんにんかがみにずっと自分じぶんかお凝視ぎょうししていて気付きづいてもらえないのだ。


そのうち、本気ほんきおんなきになり、もう一度いちど告白こくはくすることにした。

ぼくはあなたのだけでなく、内面ないめんきになった。友達ともだち卒業そつぎょうして、今度こんど恋人こいびとになってくれませんか?」

「ええ、わたし貴方あなた紳士的しんしてきでとてもやさしいところがき。ぜひ恋人こいびとになりたいわ。でもそのまえつたえておかなければならないことがあるの。」

「なんだい?」

わたしひとかお認識にんしきできないのよ。こえ判断はんだんしているの。」



実際じっさいに、ひとかお認識にんしきできない相貌失認そうぼうしつにんという病気びょうきがある。


ふたこと

彼女かのじょかがみていたのは、いつか自分じぶんかおてみたいと、かがみをみつめていればえる瞬間しゅんかんがあるんじゃないかというのぞみがあったから。

彼女かのじょがもしかお認識にんしきできていたらどうなっていただろう⋯。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る