国語辞典ショートショート小説チャレンジ

第5話連鎖《れんさ》←特にオススメ

明（あか）るい性格（せいかく）の女（おんな）の子（こ）がいた。彼女（かのじょ）は学生（がくせい）で、動画配信（どうがはいしん）を見（み）るのが趣味（しゅみ）だった。

今（いま）までの彼女（かのじょ）は何故（なぜ）か日常的（にちじょうてき）に小（ちい）さな不運（ふうん）を受（う）けることが多（おお）かった。信号機（しんごうき）は毎回（まいかい）赤色（あかいろ）、何（なに）もないところで転（ころ）ぶし、教科書（きょうかしょ）はつくりが不出来（ふでき）でバラバラになった。そのほかにも数（かず）を挙（あ）げるとキリがないが彼女（かのじょ）は前向（まえむ）きだった。

「これくらいで済（す）んで良（よ）かった♪」と。

ある日（ひ）動画配信（どうがはいしん）を見（み）ていると、1件（けん）の動画（どうが）がオススメに上（あ）がってきた。

『観（み）ると幸（しあわ）せになる動画（どうが）』

10分（ぷん）程度（ていど）のもので、彼女（かのじょ）は面白（おもしろ）がって興味本位（きょうみほんい）で観（み）てみた。

「まさか、ホンモノなワケないよね。」

するとすぐに変化（へんか）が起（お）きた。いつもなら家（いえ）で飲（の）み物（もの）を飲（の）んでいるときは高確率（こうかくりつ）で家族（かぞく）がコップにぶつかってきたり、自分（じぶん）でこぼしてしまって全（すべ）て飲（の）めないのだが、今日（きょう）は飲（の）みきれたのだ。

「まさかね...」

翌朝（よくあさ）登校（とうこう）すると、なんと信号機（しんごうき）が青色（あおいろ）だったのだ。なにもない所（ところ）で転（ころ）ぶこともない。教科書（きょうかしょ）は不良品（ふりょうひん）だったと認定（にんてい）され新（あたら）しいものが支給（しきゅう）された。

しかし何日（なんにち）か経（た）つと元（もと）に戻（もど）ってしまった。もしかしたらあの動画（どうが）を観（み）たからかもしれないともう一度（いちど）観（み）てみた。するとまた不運（ふうん）がなくなったのだ。

これはすごいと女（おんな）の子（こ）はクラスメイトたちにこの動画（どうが）を教（おし）えることにした。

女（おんな）の子（こ）の小（ちい）さな不運（ふうん）のことはクラスメイト全員（ぜんいん）が知（し）っていたことなので、もしかしたらと皆（みな）信（しん）じた。

そしてクラスメイトにも次々（つぎつぎ）と幸運（こううん）がやってきた。親（おや）から欲（ほ）しかったモノを貰（もら）えたり、良（よ）いご縁（えん）がやってきて友達（ともだち）が増（ふ）えたり。自分（じぶん）に関（かか）わる身近（みぢか）な人（ひと）にも効果（こうか）があるようだ。親（おや）が昇進（しょうしん）して生活（せいかつ）が豊（ゆた）かになった子（こ）もいた。

中（なか）にはこの『観（み）ると幸（しあわ）せになる動画（どうが）』を秘密（ひみつ）にして自分（しぶん）たちだけで見（み）ようと言（い）う人（ひと）もいたが、他（ほか）の人（ひと）の幸（しあわ）せも願（ねが）うクラスメイトたちが友達（ともだち）に、さらに友達（ともだち）の友達（ともだち）へと広（ひろ）めていった。信（しん）じず観（み）ない人（ひと）もいたが、半信半疑（はんしんはんぎ）でも観（み）た人（ひと）には必（かなら）ず何（なに）か良（い）いコトが起（お）きるので、この動画（どうが）はさらに広（ひろ）がっていった。やがてこの動画（どうが）のチャンネル登録者数（とうろくしゃすう）が世界（せかい）の人口（じんこう）の半分（はんぶん）を超（こ）えたとき、ある動画（どうが）が公開（こうかい）された。

『一回（いっかい）観（み）ただけで生涯（しょうがい）幸福（こうふく）でいられる動画（どうが）』

1時間（じかん）くらいの動画（どうが）だった。これは大変（たいへん）だとすごい騒（さわ）ぎになった。皆（みな）がこぞって見（み）たし、子（こ）どもの幸（しあわ）せを願（ねが）う親（おや）たちもムリヤリ子（こ）どもに観（み）させた。

そして世界（せかい）に平和（へいわ）が訪（おとず）れた。世界（せかい）の半数（はんすう）以上（いじょう）があの動画（どうが）を観（み）ており、そんな人達（ひとたち）は災害（さいがい）や犯罪（はんざい）に巻（ま）き込（こ）まれることもなく、ケガも病気（びょうき）になることもなく天寿（てんじゅ）を全（まっと）うできた。それに嬉（うれ）しいことばかり起（お）こるのだ。だがそれも慣（な）れてしまえば感動（かんどう）も薄（うす）れ退屈（たいくつ）になる。

人々（ひとびと）は刺激（しげき）を求（もと）めだしたのだ。そんな時（とき）、あのチャンネルから動画（どうが）が公開（こうかい）された。

『ちょっとした不幸（ふこう）を体験（たいけん）できる動画（どうが）』

説明（せつめい）を読（よ）んでみると、『一回（いっかい）観（み）ただけで生涯（しょうがい）幸福（こうふく）でいられる動画（どうが）』を観（み）た人（ひと）でも不幸（ふこう）を体験（たいけん）できるという。視聴回数（しちょうかいすう）はすごい勢（いきお）いで増（ふ）えていった。

女（おんな）の子（こ）はそれをスルーしながら呟（つぶや）いた。

「本当（ほんとう）の幸（しあわ）せは、何事（なにごと）もなく平和（へいわ）な日常（にちじょう）を送（おく）れることなのにね。」

ひとこと

この動画（どうが）、ヒマを持（も）て余（あま）した神様（かみさま）が作（つく）っている説（せつ）。