第2話 「竜姫と王女騎士」
暗く薄汚れていた監獄から抜け出した二人の竜少女であったが、それをよくは思わないのがこの国の掟であり定めである。
捕まったというよりは、知らぬうちに脱獄犯として指名手配にされてしまった彼女達が辿り着いた先。
それは隣国エキドナ、この国では竜は神様として扱われている。
そのエイナもその生まれ出であり、産み親である侮蔑族の真の末裔でありフィルレインと対をなすと言われた竜姫の火竜で、美しさを持つ侮蔑の絶傑ガルミーユ…エイナが狂う程に愛して崇拝する程の存在である。
「取り敢えず、ほとぼりが覚めるまではあたしの家に来な、のちにガルミーユ様にも会ってもらうからさ」とフィルレインに告げて、
「なら、まずはこの汗を流したい、こんな汚い服とはお別れがしたいから…」
と彼女の意見はすぐに叶うことになり、エイナが住んでいる住処に案内された。
「ただいま、おい!いるんだろ!?」と住処に着けば早々に怒号が鳴り響くがすぐに静寂が訪れエイナはため息をつきながらに、
「お前、随分と素直なんだな?」と問いかけ、フィルレインにシャワーを浴びるために必要な拭うための大きめの手拭や身体を清めるオイル瓶などを渡し、
「ありがとう、エイナ…」と告げたフィルレインに対して、顔を赤くしたまま「いいから行けよ」と呟いて…。
フィルレインが身体を清めている間に、何故かこの住処に住み着きぐうたら過ごしているであろうあの王女騎士に一言申しに行こうと、
「おい、トルテ!」と大きな声で名を呼べば「はいはい、なんですの?」と欠伸をしながらその揺れるような大きな胸を見せつけるような下着しか纏わない情けないような格好でエイナの前に顔を出し、
「おい、早く服を着ろよ…新しくここに住むやつがいるんだからな?」と顔をちょっと赤くし、視線を逸らしトルテに対して冷たく冷静に説明をして、
「わかりましたの、お連れ様は例の氷の竜姫ですのね?」と下着姿から光魔法で生成されたメイド服を模したような騎士甲冑を身に纏い…
「ああ、今はあいつは清めをしてるから茶の間で一緒に待ってな?」とトルテはそのまま食事も取る茶の間に向かって一緒に歩き始めて、エイナはその間にフィルレインや自分、トルテのために食事の準備をし始めて…。
「…。」流れ出る温かいシャワーを浴びながら、誰もいない場所で静かに涙を流すフィルレイン。
長い間、理由もなくただ捕えられていたからこそ、嫌な記憶が蘇ってきてフラッシュバックしてしまう。
恋人も、友人も、親族も行方不明である母である氷竜以外は皆拘束されて身動きできない中で目の前で殺されてしまった。
きっとエイナが口にしていた「竜姫」故であろうか純潔は奪われなかったとはいえ、この小さな口で沢山の男たちの下の世話をしてきた。
あの酷い鼻を突くような耐え難い匂いは、男たちのそれであり、
手を口に当てて歯ぎしりをしながらも、渡されたアロマオイルの匂いにエイナを浮かばせて一人落ち着き…。
「早く戻らないと…。」そう口にすれば涙を拭って、
でも今は、エイナのおかげでこんな暖かな場所で温かいシャワーが浴びれている。
身体を清め…渡された手拭を使って身体を拭き、エイナに渡された下着や服などを纏いながらに、
ほのかに香ってくる鼻をくすぐる温かい料理の匂いに、釣られ茶の間へ向かいながらにお腹を鳴らしたフィルレインを見たエイナは、
「悪いな、出来合いのものしかないが食べてくれよ」と
この短時間で用意できるはずもない湯気の立つ温かなシチューとこんがり焼かれたバケットたち。
「温かい食事なんて久しぶり…。」と牢獄では人以下にただ粗末に扱われてきた彼女はまともな食事を数年以上していなかった。
久しぶりに口にするその食べ物に「温かい…。」と言いながら氷の竜姫は静かに涙を流した。
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