昂ると名古屋弁が出ちゃう転校生

杉本蘭帆

第1話

その瞬間、彼女の良い子という仮面は脆くも崩れさった。




某都会のとある高校に通う少年・尾賀斗哉(オガ・トウヤ)は、クラスの自分の席で溜め息を吐いた。


彼は生まれつき金髪のせいで、周囲からスルーされたりからかわれたりすることが多い。


そんなある日、このクラスに転校生が現れたことで事態は大きく急変する。


「相浦千信(アイウラ・チノブ)です。よろしくお願いします」


「ええ~相浦さんは……尾賀の隣の席でいいか」


転校生の千信という少女は、端から見ればスゴい格好の制服だった。


理由は黒い線入りの紺襟に青いスカーフが特徴的な、上下紺のセーラー服という形が原因かと思われる。


「よろしく、尾賀くん」


「あ、うん。えっと……」


「相浦千信ですッ!!千信でいいですよ?」


「じゃあ、千信さん」


今まで誰かとまともに会話する機会が無かった斗哉は、心の底から嬉しくなっていた。


しかしそれを周りの人間は良しとせず、彼のその表情を見た途端ひそひそ話を始めた。


「なんか金髪野郎がニヤついてんだけど?」


「うわっ!!キッショッ!!私なら耐えられないんだけどッ!!」


「相浦のヤツ可哀想だよな~」


「転校初日に尾賀の相手とか、クジ運無さすぎてワロスッ!!」


周囲の悪意しかない言葉が胸に刺さり、段々と顔色が悪くなり俯く斗哉。


すると千信がバンッ!!と勢いよく机を叩き席を立って、深呼吸したかと思いきや周囲に怒鳴り始める。


「アンタら……自分らが言っとること最低だって分かっとるがねッ!?」


「え?相浦……さん?」


「久しぶりにでら頭にきたし、どーせやめりゃぁ言っても聞かんのは目に見えとるがやッ!!」


「なっ!!何語喋ってんだコイツッ!?頭おかしいんじゃね?」


「確かにッ!!変な格好でカラスみた……へぶっ!?」


キレた千信が方言で話した途端、クラスの女子達は唖然となり男子達は悪口を言う。


針川という男が「カラス」と呼んだ次の瞬間、彼女は物凄い速さで移動し針川を拳骨で殴ったのだ。


「誰が“カラス”だ?このクソたわけッ!!」


「ひぃッ!!」


「相浦さんッ!!もういいからッ!!」


「……やめんかーーッ!!」


両者の間に斗哉と担任が割って入り、漸く言動が止まった千信。


急におとなしくなったと思いきや、彼女は笑顔になりクラスメイト達にこう告げた。


「私、皆さんと仲良くしたいと思ってます。だから皆さんも……仲良くしましょう。せっかく同じクラスになったんですから。ね?」


「あ、相浦の言うとおりだ。みんな、仲良くするようにな」


そして冒頭に戻り、この日から尾賀やクラスメイト達の平穏は彼女の登場により崩れさってくこととなる。




放課後、尾賀は相浦が教室から姿を消したため捜しつつ下駄箱で靴を履き替えていた。


「結局、相浦さん見つからなかったな」


「私がどうかしましたか?」


「うわっ!!相浦さん、いつの間にッ!?」


「ちょっと職員室に呼び出された後、反省文書いてました」


斗哉の問いに澄ました顔で答える千信を見て、彼は自分のせいだと思い俯いてしまう。


すると千信はポンッと軽く手を鳴らし、斗哉の方を見て彼にある質問をする。


「時に尾賀くん。私みたらし団子食べたいんですが、何処かイイ店知ってますか?」


「え?みたらし団子?スーパーに売ってるよ?」


「いえ、どうせなら焼きたてが食べたいんですッ!!お願いします」


「わかった。僕も探すから一緒に行っていい?」


「もちろんですッ!!」


こうして下校途中に団子を焼いている店を探す二人。


すると意外と近場で見つかったらしく、斗哉は千信を呼び彼女に購入するか訊ねる。


「え?みたらし団子に……タレッ!?」


「当たり前だよ?って、相浦さん?」


「いかんてッ!!みたらし言うたら醤油味に決まっとるがねッ!!」


「ええッ!?そっちの方が知らないよッ!?マジでッ!?」


タレの掛かったみたらし団子を見た途端、悲鳴のような声で名古屋弁を出す千信。


さすがに団子屋の店主が咳払いをしたのを見て、慌てて別の物を指差し購入することにした。


「じゃあ私、たい焼きにします」


「ええッ!?みたらし団子はッ!?」


「また別の機会に……」


(嘘だ。絶対相浦さん、買う気ゼロだ)


みたらし団子が思ってたのと違ったため、つぶ餡のたい焼きを買う千信。


そんな彼女を見て心の中でツッコミしつつ、斗哉はカルピスソーダを買うことにした。


その後ベンチに座り千信がたい焼きを齧ったその時、彼女の口からとんでもない言葉が飛び出す。


「熱ッ!!このたい焼き、ちんちんだがねッ!!」


「ブーーッ!!ゲホッ!!ゴホッ!!」


「ちょっとッ!?尾賀くん、何で噎せてるんですかッ!?」


「なっ、なんでもないッ!!」


どうやら彼女の名古屋弁に、彼は暫く振り回されるようです。


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