第3話 彼女が家にやって来た

 今日は土曜日。彼女の春野はるのりんさんが家に来る。この予定を決める時に、春野さんから俺と寧々ねねのケーキの好みを訊かれた。


何でも、当日に有名店のケーキを持参するとか。申し訳ないから遠慮したんだが、「お邪魔するんだから、これぐらいさせて」と強く言われたのでOKした。


彼女の行動全てに裏があるような気がしてならない。考え過ぎだと良いが…。



 そして約束の昼過ぎになった。父さんは朝早くから出かけ、母さんは買い物に行ったので、家にいるのは俺と寧々だけだ。


ちなみに、春野さんと付き合ってる事は両親に言ってない。本当に好きになったら言うつもりだが、その時は来るだろうか…。


兄妹揃ってリビングで待っていると呼鈴が鳴ったので、応対してから2人で玄関に向かう。


…玄関の扉が開き、ケーキボックスを持ってる春野さんが入ってきた。私服であろうと、制服の時と印象は変わらないな。


「お邪魔します」


「いらっしゃい。両親はいないから、リビングに来てくれ」


「わかったわ」


リビングに戻ってきた俺達3人。


「ケーキはどうする? 今食べる?」


「今食べたいです!」

寧々がキラキラした目でケーキボックスを見つめる。


春野さんがケーキを買った店は、女子高生の間でバズってるらしい。俺も詳しくは知らないから楽しみだ。


「良いわよ」


「じゃあ、皿とかの準備は俺がするよ」


「お願いね、直人なおと君」


俺を名前で呼ぶのは、寧々がいる時限定だ。付き合って数日経過しても関係は大して変わってなく、挨拶とちょっとした雑談をする程度だな。


…準備中に、リビングのテーブルの椅子に座っている春野さんと寧々をチラ見する。2人は向かい合って座っていて、彼女が寧々に声をかけている。


一応俺達は付き合ってるんだから、向かう合うのは普通俺だろ? なんてモヤモヤした気持ちを抱きながら、皿・フォーク・紅茶の準備をする。



 「待たせたな」

テーブルに準備した3点を置く。俺の座る場所は…、寧々の隣で良いか。


「ありがとう直人君。お皿に移すのは私がやるわね」

春野さんはそう言って、ケーキボックスを開ける。


「うわぁ~、おいしそう♪」

寧々は興味津々のようだ。


「そうね♪」


ケーキは嫌いじゃないが、女子2人のテンションに付いて行けそうにない。この場で邪魔なのはむしろ俺なんて思ったり…。


「…移し終えたわ。早速いただきましょうか」


「はい♪」


俺達3人はケーキに手を付ける。


「…ん~♪、おいし~♪」


寧々は見るからにご機嫌だな。確かにうまいが、そんなにテンション上がるか?


「寧々ちゃんに気に入ってもらえて良かったわ♪」


「あの…、ケーキを買ってくれてありがとうございました! 」


寧々から春野さんに声をかけたのは、これが初めてじゃないか? ケーキは2人の距離を縮めたようだ。


「良いのよ。彼氏の妹さん尽くすのが、彼女の役目だから」


“にも”か…。寧々がメインというか、立場が逆のような気がする。


「直人君の事も大切に思ってるから、ヤキモチ焼かないでね♪」


「焼いてない!」

寧々の前で恥をかかせないでくれ!


それからも、女子2人の会話メインで時間が流れていく…。

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