第2話 妹に興味津々の彼女

 1限が終わり、休憩時間になった。すると隣の席の春野はるの りんさんが携帯を取り出してから、俺に声をかける。


「早く連絡先交換しよ♪」


「ああ…」


俺達は付き合い始めたから、連絡先を交換してもおかしくない。だが、彼女の積極性なら簡単に彼氏を作れる気がする。


今まで付き合った事がないのは嘘なのか? それとも勇気を出した結果? 今の俺には判断できん。


…無事、連絡先の交換が完了する。家族以外の女子は、春野さんが初めてだな。


藤巻ふじまき君。として、お願いしたい事があるんだけど良い?」


そう言われたら断れないじゃないか…。


「何だ?」


「今日の放課後、妹さんを含めた3人で帰りたいの」


寧々ねねと一緒に…?」

一体どういうつもりだ? 訳が分からない。


「妹さん、寧々ちゃんって言うんだ。今からそう連絡してくれないかな?」


この学校は、授業中でなければいつでも携帯を使える。だからアイツに連絡する事は容易いが…。


「あっ、彼女の事は秘密にしてね。私が直接言いたいから」


注文多いな…。心の中でそうツッコんだものの、俺との距離を縮めるためかもしれない。それなら協力するのが彼氏だろう。


「わかった。今から連絡する」


〇インの文章に少し悩んだが『今日の放課後、一緒に帰らないか? お前に会いたい人がいるんだ』と入力する。


「これで良いかな?」

念のため、春野さんに確認してもらう。


「…それで大丈夫だよ」


許可をもらったので送信する。後はなるべく早く気付いてくれる事を祈るのみ。


「返信来たら教えてね」

春野さんはそう言ってから席を立ち、女子グループの一部に混ざっていく。


付き合うきっかけは“交際経験を作るため”だからな。お互い好きって訳じゃないし、関係が急に変わるはずないか…。



 寧々からの返信は、休憩時間が終わりかけに来た。『良いよ。校門で待ってるから』と書かれている。とりあえず拒否られなくて一安心だ。


春野さんには、休憩時間が終わって彼女が着席した時に伝えておいた。とても喜んでくれたので、俺もつい頬が緩む。


それ以降、春野さんと話す事なく時間は流れていく。そして放課後を迎える…。



 「早く校門に行こうよ」

放課後になって早々、春野さんが席を立つ。


「そんな早く行ったら、俺達が待つ羽目になるぞ?」

寧々のクラスの帰りのホームルームが長引く可能性は十分考えられる。


「私は待つの嫌いじゃないよ? 今は藤巻君がいるから退屈しないと思うし」


この言葉は本心か? …ダメだ、よくわからない。


「それに、お願いした私が遅れたら寧々ちゃんに悪いじゃない」


「そうだな…」


「だから早く行こうね」


俺達は一緒に教室を出て、校門に向かう。



 校門に着いた俺と春野さん。周りを見回したが、寧々の姿はない。


「まだ来てないみたいだ」


「わかったわ」


……さっき俺がいるから退屈しないって言ったのに、話しかけてこないぞ。俺が話せって事? 何か話題を…。


「春野さんは、弟か妹いるの?」

俺が訊かれた事と同じ内容なら、失礼にならないはずだ。


「いないわ。一人っ子よ」


「そうなのか…」


春野さんはきっと妹が欲しかったんだな。だから寧々に興味を持ったんだろう。



 この会話を最後に、俺と春野さんは隣同士で携帯をいじって寧々を待つ。早く来てくれないかな~。そんな風に思っていると…。


「お兄ちゃん、お待たせ」


寧々の声がしたので顔を上げると、目の前にいる。


「来てくれたか」


「あたしに会いたい人はどこにいるの?」


「ここよ」


「えっ?」

俺の隣にいる春野さんとは思わなかったようで、呆然とする寧々。


「あなたが直人なおと君の妹の寧々ちゃんね。可愛い♡」


俺と寧々を呼び分けるために、名前で呼んだか。それより気になるのが春野さんが熱い視線を送ってるような…。気にし過ぎか?


「えーと、そのー」

寧々は状況を飲み込めず、俺と春野さんの顔を見比べている。


「俺のクラスメートの春野さんが、お前に会いたがってる人なんだ」


「私、今日から直人君と付き合う事になったの。よろしくね、寧々ちゃん」


「お兄ちゃんが、こんなキレイな人と付き合うなんて…」


信じられないのは俺も同感だ。彼女から声をかけなければ、今の関係は絶対成り立っていない。


「寧々ちゃんも可愛いから、自信持って♡」


「はぁ…」


…校門付近で男1人に女2人は目立つな。チラチラ見られてる気がするし、さっさとこの場を離れたい。


「寧々も来た事だし、帰ろうか春野さん」


「そうね。途中まで一緒にさせてもらうわ」


「一緒?」

首をかしげる寧々。


「彼女として直人君の家の場所を知りたいし、直人君と寧々ちゃんとの距離を縮めたいから」


「…そういう事なら良いですよ」


「ありがとう寧々ちゃん」



 一緒に下校する俺・寧々・春野さんの3人。春野さんが俺達に話を振ってくるので答えるのだが、どう考えても寧々に振る回数のほうが多い。


体感8:2ぐらい? 春野さんの目的は寧々なのか? そう思わざるを得ない…。


なんて考えてる内に、家の前に着いた。


「春野さん。ここが俺達の家だよ」


「そっか。まだ話し足りないな~」


十分話したと思うが…。


「直人君・寧々ちゃん。今度の土日予定ある?」


俺と寧々は顔を見合わせてから…。


「俺はどっちもない」


「あたしは日曜にバイトがあるので…」


高校生になってすぐ始めたのは聴いてるが、どういうところかは知らない。俺は土日はゆっくりしたいタイプなので、平日の夕方だけシフトを入れている。


「もし良かったら、土曜日に家にお邪魔しても良いかしら? もっとたくさん話したいの」


「俺は構わないが、寧々はどうだ?」


「あたしも良いよ」


「ありがとう。詳しくは直人君に連絡するからね。…バイバイ」

春野さんは俺達に手を振ってから、来た道を引き返して行った。



 「ねぇお兄ちゃん。さっきの人、本当に彼女なの?」


玄関で靴を脱いでいる最中に寧々が訊いてきた。


「一応な。付き合い出したのはだから、互いに好きって訳じゃないんだ」


「ふ~ん。あたしに話を振ってばっかりだったから変だと思ったんだよ」


「変だと思ったら、さっきの断って良かったんだぞ?」

気遣わせてしまったか?


「別に悪い人じゃなさそうだし、断る理由は特にないから」


「そうか…」


春野さんとは時間とチャンスを見つけて、1対1で話したほうが良いな。そう思う俺であった。

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