妹が彼女に寝取られた話

あかせ

第1話 念願の彼女

 「みんなが良ければだが、今から席替えをするぞ~!」


ある日の朝のホームルームに、担任がそう言った。7月は夏休み目前だし暑いから、ダレやすいものだ。ましてや、高校生活の真ん中である2年はそれに拍車をかける。


1年の同時期はまだ高校生活に新鮮味があったし、3年は受験の事で頭が一杯になるからそれどころではないだろう。今はある意味、貴重な時間かもしれない。


“席替え”は担任なりに考えた、現状打破する手段のようだ。今の席に不満はないが、反対意見が出てないから席替えをする流れになるな。



 「新しい席が決まったから、全員移動するように!」


担任の指示により、クラスメートが机を持って移動する。黒板に書かれている座席表を見れば、自分がどこの席かは一目瞭然だ。


俺の新たな席は、窓際の一番後ろだ。一番後ろになるだけでも嬉しいのに、窓際になるなんて最高だな。運が良すぎて逆に怖い感じもするが。


…移動し終えたのでぼんやり外を眺めていると、隣から机を動かす音がしたので確認する。


藤巻ふじまき君、これからよろしく」


俺の隣は、春野はるの りんさんだ。名前の通り凛としている印象で、“名は体を表す”にふさわしいと思う。


「ああ。こちらこそよろしく」


春野さんとは今まで話した事はないし、隣の席になった事もない。うまくやれると良いな。


「ちょっと訊きたいんだけど、藤巻君って妹いる?」


何で妹だけ訊く? 普通は弟も含むだろ。言い間違いなのか?


「いるよ。俺より1歳下だ」


それを聴いた春野さんの表情がとても明るくなる。どうやら興味を引いたようだ。


「1歳下って事は高1よね? どこの高校なの?」


「ここだよ」


「ここなの!? 同じ高校に進学するぐらい仲が良い兄妹なのね」


「俺達がこの高校をを選んだのは“近いから”なんだ。登校は別々だし、仲は普通だと思う」


顔を合わせれば挨拶や雑談はするから、悪くはないはずだ。…多分。


「なるほど…」


女子と話したのっていつ以来だ? 変な風に思われてないか不安だ。


「もう1つだけ訊いて良い?」


「良いよ?」

春野さんは何を訊く気なんだ?


「藤巻君って、彼女いる?」


「彼女!? いる訳ないし、今まで付き合った事ないから!」

予想外の質問できょどってしまった。穴があったら入りたいぞ。


「……もし藤巻君にがあるなら、私達付き合わない?」

俺の目を観て微笑む春野さん。


「はっ…?」

いきなり何を言い出す? 聞き間違いじゃないよな?


「私も付き合った事ないんだけど、このまま好きな人が現れるまで待ってたら、1回も付き合わずに高校生活が終わりそうで不安なのよね」


「その気持ちは…、わからなくもない」

誰誰が付き合い始めたという話は、珍しい事じゃない。


「大学生や社会人になった時に“交際経験なし”って恥ずかしくて言いにくいじゃない? だから…」


つまりプライドのためか? とはいえ、 正直に言ってくれるのはありがたい。嘘を付く人は信用できないからな。


「言いたい事は大体わかるが、俺で良いのか?」


「良くなかったら、こんな事言わないよ。誰これ構わず言う訳ないじゃない」


「それもそうだな。今のは失言だった」


正直なところ、春野さんに対して特別な気持ちは抱いていない。しかし、一応付き合う事で好きになるかもしれない。


ならなかったとしても、交際経験は今後の役に立つだろう。だったら…。


「わかった。付き合おうか」


「ありがと。連絡先は…」


「もうそろそろ1限を始めるぞ!」


担任に良いところを邪魔された。ツイてない…。


「交換は後でね」


「ああ…」



 こうして、春野さんと付き合う事になった俺。彼女の真意が気になるところだが、それは親睦を深めてからで良いや。そう思いながら、1限の準備をする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る