第5話
「えーっ? そんな訳はないでしょうっ。どどーんっと破裂する本棚とかさ? ベッドが踊りだしたりとかっ。そういうのはないの?」
「ないかなぁ。そんなのあったらびっくりしちゃうよ」
「うそ……」
暗闇の中で女の子のシルエットが肩を落とすのが見えた。声色からして本気で落ち込んでいるみたい。
「はぁ……せっかく人間の城というものに来てみたのに、とんだ無駄足だったかな。じゃあさ? 最後にあなたの顔を見せてよ。」
「私の……顔?」
「うん。私のおしゃべりに付き合ってくれた人間の顔くらい見ておきたいし。それが済んだら私はすぐに出ていくからさ。」
「あ、うん。じゃあ明かりを……」
私が、照明になる魔法がかけられた道具の元に行こうとすると、月明かりが部屋に入ってきて、私の姿を照らした。
同時に、この子の姿もしっかりと照らされた。
お互いの姿が、同時に見えるようになった。
「……!!」
私が話していた相手は、妖精だった。
「あなたっ……」
普通。妖精という生き物はとても小さくて、人間の手のひらに乗せられるくらいの大きさなんだ。でもこの子の背格好は、人間のそれだった。
私よりも少し背が低いくらいだよ。あれじゃ人間にしか見えないっ。
しかし背中に見える透き通った大きな羽が、彼女が人間ではなく妖精だということを証明している。
「あなたって、ようせ……」
「……っっっ!!!」
私は。息を飲んで声にならない声を出して固まっている目の前の妖精に声をかけてみる。
この子……いや、この妖精は私をじっと見つめている。
目を大きく見開いて、頬を赤くしている。
「ど、どうしたの? 私……あなたに何か変なことをしてしまった?」
「……っ!」
私の問いかけには答えず、この妖精はどんどん顔を赤くしていっている。私以上に、この妖精は私の姿に驚いているみたい。
私の身分を知ったから慌てているのかな? だとしたらなだめてあげないとっ!
無礼なんか私は気にしていないから、周りに罪を問われても私は許してあげるからっ
私がどうやってこの妖精の混乱を沈めれば良いのかな、と考えていると。
頬を真っ赤に染めていた妖精は、何かを決意したように目を閉じて、胸に両手を添えた。
そして静かに深呼吸をして、口を開いた。
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