第4話

「……気持ちいいな……」


窓の外から入り込んでくる夜風が私の胸に当たってくる。

少し冷たい、それでいて澄んだ風は私の胸の中のモヤモヤを晴らしてくれた。


「へへへ。今日はたっぷりこの風を浴びちゃうもん」


外に出ることができない私の、周りの人たちに向けたささやかな反抗だ。

こうやって窓を開ける。ただそれだけ。

たったそれだけの行動なのだけど、身の危険に晒されかねない王女が不用心に窓を開けるなんて許されないんだ。

実際、一度バレたときはそれはもうすごく怒られた。


「窓を開けたくらいで何でみんな怒るのかな……そりゃあ私が王女だからみんな私の身を心配しているんだろうけど、それでも、これくらいは許してほしいよね。」


理不尽さにまた私の胸がモヤが生まれた。外に出れないモヤモヤは少し晴れたけど、今度は別のモヤに襲われた。

私はこれ以上ないくらいまで窓を開けて、少し後ろに下がって、外から入ってくる夜風を全身に浴びた。


「ふふっ……気持ち良いっ」


目を閉じて、吹き付けてくる風を全力で意識する。

これが私が今できる最高の反抗だ。

見つかったらすごく長いお説教が待っている。それでもこれはやめられないよ。


「……あなた、何をしているの?」

「っっっ……!?」


えっ!? 見つかっちゃった!?

不意に後ろから飛んできた声に、私は飛び上がりそうになった。それでも声を出さないように慌てて自分で自分の口をふさぐ。


「え……えっ……!?」


どうやって謝ろうかと振り返ると、そこにいたのは鎧を着た衛兵でも無ければ、ローブを着た大臣でもなかった。

シンプルなワンピースを着た。女の子だった。


「えーっと。何か言ってくれないと困るわ。せっかく退屈を紛らわすために遊びに来たのに、こんな真っ暗な部屋で何もしないなんて退屈よ」

「あなた……誰?」

「あ、やっと話してくれたね。良かった。城の人間は他の人間たちとは違う言語でも使うのかと思ったわ」


声の調子から怒っている訳ではなさそう。部屋の明かりを全て消しているから、この子の顔は見えない。

貴族の子どもなのかな。だとしても私相手にこんな話し方はしないはず……この子は一体何者なんだろう。


「ねぇ人間さん? この城って人間の偉い人が住んでいるっていう家なんだよね? だったら何か面白い物とかあるんじゃない?」

「ええと……ごめんなさい。ここにはそんなに面白い物なんてないと思う……」

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