3-19.集う生への渇望

 わたしと加奈さん、沙奈枝さんがゲートを潜り抜けると、そこは見慣れた温泉宿の場所でした。ですが、やはりまだ死者の世界に居るようです。上を見上げれば一番星がキラキラと輝いているのが見えます。


「……あれ?」


 輝いている一番星の様子がおかしいです。何だか前に見た時より点滅しているように見えます。……いえ、点滅しているのではありません。徐々にその光が消えようとしているみたいです。


「加奈さん! 一番星が消えそうになってます!」


 わたし達は上を見上げます。あの一番星から脱出できるとは言っても、あんなに高い場所にあっては届きません。


「そういえば幽霊さん達はどうなったのでしょうか?」


「私ならここよ」


 背後からもう聞きなれた声が聞こえてきます。わたし達が振り返ると、そこには幽霊さんと……知らない男の幽霊さんが立っていました。わたしは真っ先に着物を着た見慣れた幽霊さんに抱き着きます。


「よく頑張ったわね、梢枝。加奈も助けてくれてありがとうね」


 幽霊さんはまるでお母さんのようにわたしの頭を撫でます。


「幽霊さん、その人は……」


 わたしは幽霊さんの後ろで佇む男の人を見つめます。男の幽霊さんは何だか自信が無さそうにその場でモジモジしています。


「紹介は後回し。それより、脱出の方法が分かったわ。おじさんは居る?」


「あぁ、ここに居るぞ。全員揃ったみたいだな」


 温泉宿の入り口から声が聞こえてきました。見ると温泉宿の入り口からお父さんがこっちに向かって歩いてきていました。お父さんがわたし達と合流すると、幽霊さんは凄い速度でお父さんの方に駆け寄り、拳を大きくして勢いよく叩きました。とても静かですが、まるでドゴォンという効果音が付きそうです。


「痛ってぇな! 感動の再開で急に殴るヤツがあるかぁ!?」


「自業自得よ! 帰ったらみっちりと説教してやるから覚悟なさい!」


『二人とも。脱出したいならそこまでにしてくれ』


 無線機から聞こえる大人の女性の声。それは真琴さんの声でした。声が聞こえる方に視線を移すと、そこには凄く強そうな男の幽霊さんが無線機を持って立っていました。


『お前達、よくやった。だが残念ながら時間はあまりない。そこから脱出したいなら晃光、お前が見つけた術を展開するんだ』


 お父さんはさっきまでのふざけた表情から急に真面目な表情になって、わたしの方に近付いてきます。


「梢枝。この術を使うにはお前の力も必要だ」


「っえ! でも、わたし……まだ……」


「俺一人ではこの術を展開するには力が足りない。だから、お前の力を借りたいんだ」


 でもわたしはまだ修行すらまともにできていません。そんなわたしが力を貸しても、本当に成功するのでしょうか。もしわたしのせいで失敗してしまったら……。


 その時、ポンと幽霊さんが私の肩に手を乗せました。


「大丈夫。梢枝なら出来るわ。私が居なくても、加奈と力を合わせてここまで来れたじゃない。私達も力を貸すわ。だから、自信を持ってやりなさい」


 わたしは目を瞑って大きく息を吸います。そして吸った息をゆっくりと吐いてお父さんの目を見つめます。


「分かりました。お父さん、わたしやります」


「よし。こっちだ、着いて来い」




 一方、幽霊の少女は梢枝と晃光の元に集まっていく人たちとは別に、沙奈枝の元へ向かっていた。そして沙奈枝の前に少女は立ち、じっと沙奈枝の目を見つめた。


「沙奈枝。アンタがここに死を引き寄せて、あの化け物を引き寄せた。アンタの死への憧れが、アイツを引き寄せたのよ。だから確認させて」


――生きることについて……覚悟は決まったかしら?


 沙奈枝はその問いかけに一切動じることは無かった。


「もちろん。梢枝ちゃんに必死に呼び止められちゃったからね」


「ふ……いいわ。それじゃ、行きましょ!」

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