3-5.地の底から現れるモノ

 ――子供部屋にて。


「ゆ、揺れが収まった?」


 わたしと沙奈枝さん、加奈さんは一か所に集まって揺れを耐えていました。ですが、揺れは徐々に小さくなりやがて収まりました。わたし達はゆっくりと立ち上がります。


「い、今のは何なのでしょう……」


「わ、分からないけど注意するに越したことは……梢枝ちゃん危ない!」


 わたしの目の前に突然加奈さんが飛び出して、突撃してきたナニカを抑え込みました。突然の事過ぎて頭が追いつかないまま加奈さんが抑えているモノを覗き込みます。それは先ほどまで部屋を漂っていた“彼ら”の内の一人でした。


「梢枝ちゃん! 結界を張って!」


「は、はい!」


 わたしは急いで左手を顔の前に持ってきて温かいイメージをします。すると、わたしと加奈さんと沙奈枝さんを包み込むように温かい結界が張られます。加奈さんは力をいっぱい込めて彼らを結界の外に追いやりました。


「な、何で急に……」


「沙奈枝ちゃん、梢枝ちゃん。私の傍から離れないでね……!」





 ――一方、晃光と幽霊の少女は。


「ちょ、ちょっと! これじゃあの子達の方に行けないんだけど!」


 晃光と幽霊の少女は襲い掛かってくる幽霊たちをリビングで祓いのけていた。だが、三体祓えば窓や壁から六体現れる。祓っても祓ってもキリがなく、晃光と幽霊の少女、そして地下で出会った正体不明の幽霊の男はリビング中央まで追いやられていた。


「おじさん! まとめて祓う方法とか無いの!?」


「はぐれ者の祓い師にそんな器用なことが出来ると思ってんのか!?」


 近寄ってきた幽霊を晃光が結界で突き飛ばし、幽霊の少女がまとめて縛り上げてそのまま祓う。晃光の結界で守り切れない幽霊は少女が蹴り飛ばし、晃光が召喚した数珠の球のようなもので攻撃しそのまま消滅させる。


「こんなの、いつまでも続けられないわよ! こっちの体力が持たないわ!」


「もう駄目だ……アレが来たらお終いだ……」


晃光は幽霊の男の胸倉を掴み、持ち上げる。


「言え! 何を知ってる、何が来る?」





 ――一方、梢枝と沙奈枝、加奈は。


「ちょっと! この数は不味いって!」


「梢枝ちゃん! 大丈夫!?」


 わたしと加奈さんが張った結界中に彼らが集まって押し込んできます。結界は徐々に小さくなり、わたし達は部屋の中央へどんどん押し込まれていきます。わたしの結界の内側に加奈さんが結界を張って押し広げていますが、何十人と押し寄せる彼らには敵いません。


 目の前が徐々に霞んでいきます。わたしがもっと、攻撃する術を身につけていたら、もっと状況が良くなるのに……。腕は震え、足の力が抜けていきます。


 ――パリン!


「梢枝ちゃん!」


 わたしはその場に倒れてしまいました。視界が霞んでも、まだ意識はあります。沙奈枝さんがわたしの身体を持ち上げて、今にも崩れそうな表情でわたしを見つめています。


「……えちゃん! ……ちゃん! 聞こえ……!?」


 遠くの方で加奈さんの声が聞こえます。加奈さんの張っている結界にも徐々にヒビが入っていきます。





 ――一方、晃光と幽霊の少女は。


「言え! 何を知ってる、何が来る?」


 晃光は幽霊の男の胸倉を掴み持ち上げて、男を問い詰める。男は震える声で、そしてか細い声で晃光の問いに答える。


「地の……底……全てを喰らうモノが……来る……!」


「お、おじさん……あれ……」


 乱戦の最中、幽霊の少女は晃光の肩を叩き窓の外を指差す。


 ――ドン、ドン、ドン。


 ソレは大きな音を立ててこちらに近寄ってくる。ソレに近付いた幽霊は次々と呑み込まれていく。幽霊はソレを恐れるように徐々に晃光たちから離れていく。


「あの子達を連れてこなきゃ!」


 幽霊の少女はすぐさま階段の方へと向かった。


 だが。


 それは間に合わなかった。


『~~~~!!!』


 言葉にならない咆哮をソレが上げた瞬間、幽霊の少女の身体は黒い鎖に拘束された。





 ――一方、梢枝と沙奈枝、加奈は。


「梢枝ちゃん! 梢枝ちゃん! 聞こえる!?」


 私は必死に梢枝ちゃんを呼びかけます。けれど、梢枝ちゃんは虚ろな瞳で私を見つめるばかりです。私が張った結界ももうすぐで破られてしまいます。結界にヒビが入り、徐々に結界全体にヒビが広がっていきます。


「な、なにあれ……」


 後ろで沙奈枝ちゃんが震える声で呟きます。私がさっと後ろを振り返ると、窓の向こうに異形の存在がこっちに近付いてきていました。真っ黒で禍々しい気を放つ存在。ブヨブヨとしていてまるで肉の塊のように丸くて大きい。口は大きく開かれ、とげとげとした歯がまばらに生えている、まさに怪物と呼べる存在でした。


 あんなの勝てる訳がない。


 直感的にそう思った時でした。


 ――パリン!


 私達を包んでいた結界が砕け散りました。


「不味い!」


 私は梢枝ちゃんと沙奈枝ちゃんの元に駆け寄り、二人を抱え込むように抱き着きました。どんな攻撃が来ても私が受け止める。生きている人を殺させない。私はもう一度死んでも構わない。でも、私を助けてくれた二人は絶対に守る。


 ぎゅっと目を瞑って、二人をぎゅっと抱きしめました。


 …………。


 …………。


 何も起きません。


「幽霊さん達が逃げていきます」


「え?」


 梢枝ちゃんのその言葉に私は周囲を見渡します。確かにさっきまで襲い掛かろうとしていた幽霊達がゆっくりと……ううん、何かに怯えるように離れていきます。


『~~~~!!!』


「な、何の声!?」


 沙奈枝ちゃんが怯えた様子で梢枝ちゃんに抱き着きながら叫びます。


 私は二人の方へ振り返ろうとします。


(……!)


 身体が動きません。身体に黒い鎖が巻き付いています。


「こ、梢枝ちゃん……! 沙奈枝……ちゃん……!」


『~~~~!!!』


 もう一度何かの咆哮が聞こえた時。

 私は意識を失いました。

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