3-4.廃墟に隠された部屋

 ――数十分前。


 晃光と幽霊の少女は梢枝達とは別に調査をしていた。二人が目を付けたのは廃墟に入ってすぐ横にある洗面所。洗面所はお風呂場と繋がっている構造になっていた。二人は洗面所に入って周囲を見渡す。


「どうだ、何か感じるか?」


「何となくね。多分この下よ」


 幽霊の少女は足元を指差す。だが、二人の足元には洗面所の絨毯しかない。お風呂場の方も覗き込んでみるが、特に何の変哲もない。念のためお風呂場の排水溝の蓋を男は開いてみるが――腐った水の臭いが広がっただけで特に何もなかった。


「何してんのよ。そんな臭い嗅いでないで早くこの絨毯をどかしてみなさい」


 男は渋々洗面所に戻って絨毯を掴む。


「何か落ちてたかもしれないだろ……」


 ぼそっと漏らした男の一言に少女はため息を吐く。


「ゲームじゃあるまいし……。じゃ、アンタは異臭を放つトイレにも手を突っ込んで調査をするってことね」


「流石に素手ではいかないぞ」


「でも、調査はするのね」


「…………」


 男は黙り込んでさっと洗面所の絨毯を引っ張る。するとそこには床下に続く扉が現れた。


「普通床下なんて洗面所に作るかしらね」


「ただの床下じゃないんだろう」


 男は床下への扉を引いて開く。だが、開かれた先の光景は一般的に想像される床下の光景ではなかった。


「これはとんでもない案件かもしれないわね」


 梯子で地下へと続く道が二人の目の前に広がっていた。幽霊の少女は無言で「お先にどうぞ」と言わんばかりに右手を床下に伸ばしていた。男は呆れた様子で梯子に足を掛ける。トントントンとゆっくり男は地下へと降りていく。


 一番下まで到達すると、男はポケットからフラッシュライトを取り出して目の前を照らす。周囲はそれほど広い様子はなく、ただ目の前に扉が一つあるのみであった。男は手を上げて幽霊の少女に安全を伝える。すると幽霊の少女はすっと上から浮いて降りてきた。


「お前、透けてそのまま降りて来れるならわざわざ絨毯どかして俺が先に確認する必要無かっただろう」


「ま、細かいことはいいのよ」


 幽霊の少女は男の横をすっと通り過ぎて目の前にある扉の横に待機する。男も同じように扉の横に歩み寄り、ドアノブに手を乗せる。男と少女が目を合わせると、男はゆっくりと扉を開いた。


 …………。


 …………。


 特に物音はしない。


 次に男は扉の横から中の様子を伺う。中はまるで倉庫のようだった。それほど広い部屋ではないが、棚が3、4つほど並び、棚の上には少し大き目な瓶が置かれていた。それ以外に部屋に異常は見られない。男は少女に合図を送り、ゆっくりと部屋の中へと入っていく。


 棚にびっしりと並べられている瓶。その中には丸く黒ずんだ実のようなものが詰め込まれていた。男にはこれが何であるか。その正体に身に覚えがあった。いや、覚えがあるなんてものではない。深く刻み込まれたものだ。


「一体、ここで何をしようとしていたんだ」


 ――ガチャン!


 棚が揺れる音。男と幽霊の少女は即座に反応し、幽霊の少女は部屋に結界を張った。中に居る何者かが出ることが出来ないように。男も自身に結界を張りながらフラッシュライトで周囲を照らす。


 二人は周囲を目を凝らして確認する。棚と棚の隙間。瓶と瓶の間。


 …………。


 …………。


 ――ガタ。


「そこか」


 男は光る鎖を召喚し、素早く音のした方へ伸ばす。


『ぐぁ!』


 若い男の苦しむ声。拘束は成功した。二人は拘束した何者かの元へ駆け寄る。


「や、やめて! 頼むから……酷いことはしないでくれ……」


 そこには怯えて弱弱しい顔をした若い男の幽霊が倒れ込んでいた。だが、姿は幽霊の少女や加奈のようにハッキリと見えている。見た目に反してそれほど弱い幽霊という訳ではないのだろう。


「お前は何者だ」


「ぼ、僕はただここに隠れていただけだ。名前は……思い出せない」


「……この幽霊からは敵意を感じないわ」


 幽霊の少女は男に耳打ちした。男はサッと鎖を仕舞って幽霊の男を解放した。幽霊の男は弱弱しく立ち上がると、怯えた様子で話し始めた。


「それよりも、き、君達は誰だ? 何をしたか分かってるのか?」


「何のことだ」


 その瞬間であった。周囲がゆっくりと、だが徐々に大きくなるように揺れ始めた。


「あ、あぁ……アレが、アレが来る……」


 幽霊の男は頭を抱えてその場に座り込む。ただの地震にしては大きすぎる。だが、スマホの地震速報などは来ていない。立っていられない程の地震であれば時間差でも反応しそうなものであるが、一切の反応を示さない。つまり、これはただの地震ではない。


「まずい……!」


 男は急いで立ち上がり、梯子を上って地上を目指し始めた。幽霊の少女も正体不明の幽霊の男を連れて地上へと向かった。

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