2-10.ある二人

 ――とある廃墟。


 晃光という男と、彼をよく知る彼女がそこで二人にしか分からない会話を交わしていた。


「お前にあの力が制御できるとでも?」


 彼女はそう言ってその場を去ろうとする彼を呼び止める。そしてそれは彼女の読み通り彼の歩みを止めるには十分だった。


「何が言いたいんだ」


「わざわざあの山に出向いて、自分が何をしたか分かってるのか?」


「……それを言うためにここまで来たのか?」


 彼は左手に持った数珠を固く握る。その後すぐさま彼女の方に振り返って、左手で浮かした廃墟の椅子を彼女に投げ飛ばす。が、彼女は一切動じることなくその椅子を正面に張った結界で切り裂く。


 彼はそのまま続けて数珠に付いた球のようなものを自身の周囲に出現させ、それらを彼女の方に向けて発射する。対して彼女は左手の甲を彼に向けると彼女の目の前に黄色い結界が現れ、彼の攻撃を全て防いでいく。廃墟の壁はひび割れ、周囲は埃まみれになっていく。


『我に使えし概念よ。我が呼び声に応えたまえ』


 彼女がそう発した瞬間、彼の目の前に巨大な手がどこからともなく現れ、彼の全身を押し倒して拘束する。


「それで、次はどうするつもりだい?」


 彼女は余裕そうに拘束された彼を見下ろしながらそう問いかける。対して彼は拘束から逃れようと身をよじらせるが、一切その拘束から抜け出すことはなかった。


「俺を殺すのか?」


「あたしが生きた人間を殺したいとでも? その答えはお前がよく分かってるだろう?」


 「ふん」と彼は鼻を鳴らし彼女から顔を背けた。


「あたしはアレを必ず祓う。今度は徹底的に。その時はお前も一緒だ。だが、もしそれまでにお前がアレを祓うなら、お前を見逃して祓い師としてのチャンスをやる。昔馴染みとして」


 彼女は左手をサッと横に振ると彼を拘束していた巨大な手はどこかへと消えた。

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