2-5.怪異はどこに

「それじゃあ、このあとは自習だ。今日やったことをレポートにまとめて提出するように。くれぐれも寝るんじゃないぞ、沙奈枝」


「はいぃ……」


 何とか無事に補修は終わって、時刻は16時頃になっていました。まだ空は明るいですが、日は赤く染まり始めている頃です。わたしも問題なく宿題を進められましたが、それよりも気になることがあります。


「沙奈枝さん、わたし少しお手洗いに行ってきますね」


「うん、行ってらっしゃい」


 わたしはガラガラと教室の扉を開けて廊下に出ます。点々と設置されている窓からは日が差し込んでおり、誰もいない(とはいえ、何人か幽霊さんは居るのですが……)廊下はそれだけで何故か怪しい雰囲気を漂わせていました。ですが、やはり引っ掛かります。


 女子トイレに着きわたしは個室へ入り扉を閉めます。


「幽霊さん、どうでしたか?」


 青く花柄の着物を着た幽霊さんはす~っと個室の壁の向こうから透けて姿を現しました。姿を現した幽霊さんは何だか考え込むような表情で話し始めます。


「まず、ここには話にあった怪異は確実に存在するわ。この学校を包み込み始めている真っ黒い気、恐らく既に力をつけ始めている怪異なのでしょうね。けれど……」


「けれど?」


「気の発生源が分からないのよ。学校全体を包み込み始めているのは間違いない。だけど、その気を発している幽霊が一切いないのよ」


 幽霊さんはわたしが引っ掛かっていたことを口にしてくれました。以前幽霊さんとお父さんが払った怪異である“お母さん”は、真っ黒いモヤみたいのを纏っていました。だけど、この学校にいる幽霊さんは一切そういった明らかに良くない雰囲気を纏っている感じがしないのです。


「その感じ、キミも気付いていたみたいね」


 幽霊さんは「はぁ~」とため息を一つついて身体を伸ばします。幽霊さんの伸びはまるで猫さんのようにホントに伸びていますが……。


「まぁ、私達だけで何とかするしかないわね。あのおじさんは居ないし、もしかしたらやっかいな怪異……」


 幽霊さんはそこで話を止めました。

 何だか周りの様子がおかしいです。

 異様に静かというか、空気が変わったというか。


「梢枝、注意しなさい」


 その瞬間でした。瞬きをした瞬間に周囲の臭いが変わったのです。

 この学校はコンクリートで出来たどこにでもある学校でした。

 なので、こんな臭いがするはずがありません。


 わたしと幽霊さんは顔を見合わせて個室のトイレから飛び出します。そして女子トイレからも出ると、そこはいつの間にか真っ暗になっていました。さっきまで窓から差し込んでいた陽の光は、いつの間にか白く透き通った光に変わっていました。


 わたしはスマホを取り出してライトを点けると、そこには予想だにしていなかった光景が広がっていました。


「どうして……」


「これは、思っていたよりも厄介ね……」


 そこは、木造建築の学校の廊下でした。

 構造はさっき歩いてきた廊下と同じく、点々と窓が設置されている廊下です。

 ですが、全体的に茶色の色調で床は木材で出来ています。歩けばギィィッと木が軋むような音が、誰もいない廊下に響きわたります。


 そして、周囲は明らかに静かです。さっきまで居た幽霊さん達も今はどこにもいません。


「明らかな別空間。私達は“誰か”の認識が作った領域に入ってしまったみたいね。キミのお母さんが作り出していた空間みたいに」


「誰かの作った領域……一体誰の領域なのでしょう」


「今はまだ分からない。でも、その人物の領域に居るなら逆に答えも見つけられるはず。まぁ、相手の頭の中を探るみたいな感じね」


 わたしはスマホをぎゅっと握りしめて少し下唇を咬み、意を決します。


「それじゃあ、行きましょう」


 その時でした。


『キャァァァァァァァ!!』


 どこからか叫び声が聞こえてきました。その声には聞き覚えがあります。


「沙奈枝さん! 急いで行かなくちゃ!」


 わたしと幽霊さんは急いで声の聞こえた方へと向かいました。

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