2-6.ファーストエンカウント
――数十分前。
「よし! レポート終わり!」
アタシは必死こいてあのメガネが持ってきた鬼畜課題を終わらせてやった。これで帰ってアニメやらゲームやら出来る。そう思って目を瞑って大きく伸びをして目を開けた時――。
「……え?」
いつの間にか辺りは真っ暗になっていた。いや、正確には教室の窓から月明りが差し込んできて全く周りが見えないという訳ではない。
レポートを書くのは苦手だから、いつの間にか夜になってしまったのか?
いや、そもそも夜だったらどうやってさっきまでレポートを書いていたんだ?
落ち着け。冷静になれ、アタシ。バッグの中に入れていたスマホを取り出してライトを点ける……よし、ライトは点く。アタシはスマホのライトで周囲を照らす。
「いやいや、どうなってるのさ……」
そこはさっきまでアタシが居た教室じゃない。教室はコンクリートで出来ていたのに、こんなにもすぐに木造になる訳ない。アタシはバッグを背負って立ち上がる。歩き出せば木が軋む音がする。つまり、これは幻覚ではなくて本当に木造になっているのだろう。
頭の中に“アレ”が過る。
“補修をしていると、どこからか心臓の鼓動が聞こえるの”
この際レポートとか課題とか補修とかどうでもいい。早く梢枝ちゃんを見つけ出してこの場所から逃げないと。
アタシはスマホのライトを頼りに早歩きで近くの女子トイレに向かう。廊下を歩く度に木が軋む音が誰もいない廊下に響き渡る。その音がさらにアタシを焦らせる。女子トイレについてアタシは叫ぶ。
「梢枝ちゃん! 梢枝ちゃん! どこにいるの!」
返事は無い。個室のドアは全て開いている。
ここに梢枝ちゃんは居ない。それなら、どこに……。
アタシは急いで女子トイレを飛び出した。
――ペチン……ペチン……ペチン……。
廊下に響き渡る音。それは手のひらに何か薄いものを打ち付けるような音。その音は徐々にこっちに近付いてくる。
(いや、怪異違うやん!)
「ごめん……梢枝ちゃん……!」
アタシは梢枝ちゃんがここに居ないことを信じて昇降口に向かう。
汗が止まらない。
暑いはずなのに寒い。
――ペチン、ペチン、ペチン。
徐々に音は近付いてくる。
靴を履き替えるなんて後回し。
アタシは昇降口のドアに飛び付いた。
――ガチャガチャガチャガチャ!
「だから何で開かないのよ!」
――ペチン!
『補修の時間だよ』
辛うじて言葉として聞こえる、歪んで低い声。
打ち付ける音は真後ろで聞こえて、
その声もアタシの真後ろから聞こえてきた。
アタシは――。
「キャァァァァァァァ!!」
後ろを振り返らずに横に逃げ出した。そしてそのまま昇降口のエリアをぐるっと回って廊下に飛び出す。
――ペチン! ペチン!
――ズコン!
アタシは床に躓いて転んでしまった。
立ち上がれない。
アタシは仰向けになって背後から迫るモノを目にした。
長い定規を手のひらに打ち付けながらこっちに近付くナニカ。
その姿は真っ黒な何かに覆われて、かつ歪んでいて判別できない。
「さて、補修の時間だよ」
『補修なんてクソくらえよ』
どこからか聞こえてきたその声。小さな女の子の声。
その瞬間、どこからともなく何かが現れて定規を持ったナニカを殴った。
定規を持ったナニカはそれに怯んで態勢を崩す。
「沙奈枝さん、大丈夫ですか」
その声には聞き覚えがあった。
「梢枝ちゃん!?」
アタシは梢枝ちゃんの手を取って立ち上がる。全く状況が呑み込めない。一体何が起きているのか全く分からない。
「ちょっとこの人たち誰!?」
「あれは、この怪異を引き起こしていると思われる幽霊さんです。そして沙奈枝さんを助けたあの着物を着た女の子の幽霊さんは――」
――怪異を祓う“祓い師”の幽霊さんです。
着物を着た少女は右手を顔の前に持ってきて人差し指と中指を上げる。
定規を持ったナニカは真っ黒な棘のようなものを何本も着物を着た少女に飛ばす。けれど、少女はそれに一切動じることなく、全て何か膜のようなもので弾き返していた。
『生者に害を為す悪しき概念よ、神霊が汝に命ずる! 汝の居るべき世へ返れ!』
その瞬間、少女の周りから光る鎖のようなものが現れて定規を持ったナニカの身体に巻き付く。鎖は“ソレ”を縛り上げ、そのまま――“ソレ”は光と共に消え去った。
これがアタシが初めて“彼ら”と出会った瞬間。
これから始まる奇妙な体験の始まりだった。
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