2-3.補修の怪談

「忘れ物は無いかな……」


 わたしは宿の着物から半袖の青のワンピースに着替えて肩掛けのカバンを持って、出かける準備をしていました。その音を聞きつけたのか天井から透けて幽霊さんがやって来ました。


「あら、こんな時間からどこかに行くの?」


「はい。友達から連絡があって……」


「あら、なんだ居るんじゃない、友達」


「いえ、学校で知り合った人じゃなくて施設で知り合った人なんです。それとわたしよりも少し年上で」


 お友達の名前は沙奈枝さなえさん。中学生でわたしよりもお姉さんなんだけど、短い間ですごく仲良くしてくれてあっという間に仲良くなれました。とっても元気で明るい人です。


「それで、その子からどんな連絡があったの?」


「それが……」





 “補修をしていると、どこからか心臓の鼓動が聞こえるの”


 それは時間帯に関係なく、教室で一人補修を受けているといつの間にか夜になって学校の中に閉じ込められてしまう話。学校から出れずに彷徨っているとどこからか聞こえるそうです。


――ドク……ドク……って。


 それはまるで心臓の鼓動のようで、その音は徐々に近づいてきます。そしてその音に近づかれてしまったら最後。その音の主に捕まってどこかへと連れていかれてしまうそうです。残るのはその人が居たという持ち物だけ。


「そんな噂が流行っているので今朝――」


「アタシまだ死にたくないよ~。ごめん、ちょっと付き合ってよ~」


 泣きそうな声で助けを求める電話をしてきました。


「へぇ~。ところで、出られないのに何でそんな噂が流行ってるのよ?」


「それがどうやら前にその学校で行方不明者が出たみたいでして、その行方不明者はスマホを一台残して失踪してしまったそうです。そのスマホに――」


「――怪異の様子が映し出されていた訳ね。面白いじゃない。あのおじさんも連れていきましょ」


「わたしもそう思ったんですが……」


 …………。


 …………。


「今日はどこにもお父さんが居ないみたいで」


「ふ~ん。じゃ、私達だけで行きましょうか」


「お父さんは居なくて大丈夫でしょうか?」


「大丈夫。私だって十分強いんだから」


 わたし達は支度を整えて温泉宿から出ます。そして、しっかりと入口に鍵をかけて肩掛けバッグの紐をぎゅっと握りしめます。


 これがわたしが遭遇する二つ目の怪異。そして。

 危険に満ちた祓いの幕開けでした。

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