1-9.今日から俺がお前の
あれからわたしは施設に引き取られ、数日が経ちました。親戚が見つからないわたしは誰にも引き取られず、引き取り手が見つかるまでは施設暮らしになる予定です。それでも、あの家に居るよりかはマシですし、施設の人もとっても良くしてくれました。
でも、そんな生活はほんの数日で幕を閉じました。
「引き取り手が見つかったわよ」
わたしは施設の人についていくと、わたしを引き取るという人が待合室で待っていました。その人はよれよれのTシャツを着て短パンでちょっと頼りなさそうな――。
「おじさん!」
「おじさんちゃうわ、お兄さんじゃ」
「あら、知り合いなのね。それじゃ、手続きをお願いします」
手続きと荷造りを済ませて、わたしとおじさんは施設から出て帰り道を歩いていました。夕方の、逢魔が時。怪しく夕日が照らす帰り道。
「まさか、おじさんが来てくれるなんて」
「だから言ったじゃない。コイツはロリコンだって」
「あのなぁ、人の好意をお前は何で捻くれて解釈するんだ」
「だって、人の入浴を覗いて頭を撫でてくるおじさんじゃない」
「…………」
ほんとにこの人?達はいつも賑やか。わたしは思わず頬が緩んでしまいます。こんなこと、あの家にいた時は……お父さんが亡くなってから考えたこともありませんでした。
「
おじさんはわたしの目をしっかりと見つめて――。
「……いい名だ」
ただ、そう言いました。
「お前は強い子だ梢枝。何があっても、俺とコイツがお前を守る」
『お前は……強い子だ■■。お前がもし窮地に陥ったら、お父さんが守ってやる……』
『お前は……強い子だ梢■』
『お前は……強い子だ梢枝』
お父さんが最期に残してくれた言葉。それがわたしが最後に名前を呼ばれた瞬間でした。もう、ずっと名前をこんなに温かく呼んでくれたことはありませんでした。
「……うん」
ここがわたしの家。これからは、ここがわたしの帰る場所。
「今日から俺がお前の――父親だ」
わたしと幽霊さんとおじさん。わたし達は三人で、またあの温泉宿に軽い足取りで帰りました。
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