1-8.祓い師
『ウ……ウァァ……』
「まったく……空気の読めないヤツが居るわねぇ……」
幽霊さんはゆっくりと立ち上がり、真っ黒なモヤに包まれて動いてるお母さんの方に振り向きます。おじさんも立ち上がり、左手に持っている数珠を持ち直して姿勢を正します。
『ウラメシィ……ニクイィ……コロシテヤル……』
「勝手にあの世に行ってなさいよ。他人まで引きずり込まないこと! 幽霊になった時のマニュアルで読まなかったの?」
『ウァァァァァァァ!!!!』
「はぁ……」
二人ともさっきまでの雰囲気とは違います。何と言うか……。
(お父さんみたい……)
「あ、あの!」
わたしの声で二人は振り返ります。
「あなた達は何者なんですか?」
「私たち? 私たちは――」
二人はお母さんの幽霊に構えの姿勢をとります。
「ただのはぐれ者の祓い師だ」
「それと成仏できなかった幽霊ね!」
幽霊さんは首を回し、手首を回して鋭い目つきでお母さんの幽霊を見つめます。でも、その顔はどこか余裕に満ちていて、少し楽しそうな顔をしています。
「さて、おじさん。仕事の時間よ」
そう言うと、幽霊さんは目にも止まらぬ速さでお母さんの幽霊に近づき殴りを一発打ち込みました。お母さんは幽霊でもその殴りは効いたようで、一瞬体勢を崩しましたが、即座に何処かへと消えました。
「おじさん、ちゃんとその子を守るのよ!」
「任せろ」
おじさんは左手を顔の前に持ってきて祈りながら右手の人差し指と中指を立てて何かを唱え始めました。すると途端に周囲が心地良い温度になり、とっても心が温かくなる空間になりました。
お母さんは首を吊ったまま家中を飛び回り、そのお母さんを幽霊さんは物凄いスピードで追っています。そして姿が消えたと思った次の瞬間、幽霊さんはお母さんの頭上に現れました。
「いい加減に……なさい!」
幽霊さんはお母さんの頭に足を振り下ろし、お母さんをそのまま地面に叩きつけました。お母さんはよろよろと動きながら、わたしの方へ近寄ってきます。
『ウアァァァァ! ウゥゥゥゥゥ!!』
ですが、どうやらお母さんはおじさんが作った何かによってこっちに入れないようです。必死にしがみついてこっちを睨みつけるお母さんの目。わたしがこれまで何度も見てきた目です。わたしは思わず目を逸らしました。
「ほらおじさん! 結界くらい張りながら動けるでしょ!」
ポンとおじさんがわたしの肩に手を置きます。
「大丈夫だ。死者に生者の感情を揺さぶられるんじゃない。今ここに生きているのはお前自身だ」
「ふん!」という太い声と共に、おじさんは左手でお母さんの頭を掴んで家の壁の方まで蹴り飛ばしました。
「憎しみ、恨みにかられる死者よ。お前達は生きる者を苦しめて同じ場所へ引きずり込もうとする。その罪の重さをしかと思い知れ!」
おじさんが両手をパンと合わせた途端、お母さんの周りを変な模様が描かれた円形の紋章の中に閉じ込められました。紋章からは鎖のようなものが飛び出して、お母さんの身体を縛りつけています。幽霊さんもおじさんと同じように手を合わせて何かを唱えています。
『ウ”ァ"ァ"ァ"ァァァァ!』
紋章から放たれる光が徐々に強くなっていき、家中が明るくなっていきます。その明かりはどこか温かいですが、同時に怖くもありました。
「さ、これでお終い!」
幽霊さんがそう言い右手の指先で“神霊命返”と描くと、光はとっても強くなり――。
――光と紋章と一緒にお母さんの幽霊は消えてしまいました。
あまりに一瞬の出来事でした。まるで何かの漫画でも見ているかのような出来事が、今わたしの目の前で繰り広げられて終わりを迎えました。
「ふ~一時はこの子がコイツの領域に消えちゃうからどうなることやらって心配したけど、大したこと無かったわね」
「大丈夫か?」
「へいきへいき~問題ナッシングだよ」
本当にこの人達は何なんだろう。
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