第19話
毎朝毎朝
そんな中、誰に挨拶をするでもなくいつも通り一直線に自席へ向かう俺に珍しく掛けられる声が一つ。
「田中君おはようっ」
鈴の鳴るような声のした方へちらと顔を向けると、談笑中の井川がひらひらと手を振っていた。
ほんと朝っぱらから屈託の無い笑顔だこと。
やっぱこいつは天使の生まれ変わりか何かだな。
とはいえ
挨拶半分に視線を外そうとすると、ふと驚いたような顔をしている
うん、見なかったことにしよう。
別にそんな関係じゃないから勘違いしないでよねっ。お願いっ。
まあ井川に挨拶されたからってクラス内での扱いやキャラが変わる訳でも無い。
あくまで俺は俺。
大樹の
その後、後列窓際の特等席に腰を下ろした俺はぼんやりとスマホを眺めていた。
結局あの夜、井川と連絡先を交換した俺は以降毎日彼女と他愛無いメッセージのやり取りをしてる。
「今日は疲れたね」とか「おやすみ」とか。
あとさっきリアルで井川から声を掛けられたが、実は既に
カップルかよっ?!
まあ、正直言って嬉しくないわけじゃない。
それに勘違いしたくないわけでもない。
でも、なんなんだろこの気持ち。
俺は片肘をつきながらぼーっと窓の外に視線を移すと、広がる真っ青な空に向けよく分からない溜息を吐き出した。
続・最近何かがおかしい俺の毎日。
というわけで美少女の後には美少女が。
放課後、俺と永瀬はいつもより遠回りして駅の方面を歩いていた。
ちなみにこっちにはちょっとしたアーケードや大きな市立公園もあって、放課後には多くの学生が集う場所でもある。
そんななか俺たちはリア充連中に
まあこれがリア充だと言われればそうなのかも知れないが、ボッチがボッチに絡まれているだけなのだから少なくとも議論の余地も一つや二つくらいあるんじゃなかろうか。
俺は手に持つクレープをパクリひと口。
広がるのはカスタードの上品な甘さにイチゴの酸っぱさが加わり何とも言えない絶妙なバランスである。
一方の永瀬は俺よりも更に
ふんだんにチョコとホイップクリームがトッピングされた上、なんと桃が丸ごと入ったクレープ。ちなみにキャラメルソースも別でトッピングしていた気が?
さすがにこれはやり過ぎじゃないかい?
恐る恐る眺めるも、彼女の出した答えは満面の
と、視線に気付いた永瀬がなにやら思いついたらしい。そうかと思ったら俺に向けクレープを差し出してくる。
「って、別に食べたいなんて言ってないだろ?」
「あらそうなの? まあでもいいじゃない。せっかくだし。はい、アーン」
そうこうしている内に、永瀬が一口かじったクレープが目の前に。
しかもなんで自分のかじった側を俺に向ける?
とはいえ習慣とは恐いものである。そう、こいつから差し出されたものを食べてしまうのはもはや条件反射なのだ。
俺は敢えてというか当然というか、かじってないほうの端をカプっと小さめにひと口。
するとなぜか残念とばかり、永瀬がため息交じりに肩を
「ねえ、私もひと口もらっていい?」
「え、別にいいけど」
俺は当然かじってないほうを彼女に向ける。
なのに永瀬はあえて俺のかじった上を柔らかそうな唇で包み込んだ。
次いで悪戯っぽい目を向けてくるものの、口の端に生クリームつけて何やってんだか。
そんな永瀬にふと笑いが零れた。
ほんとこいつは……。
なんつうか、俺たちが初めて会ったのは小学生の時で。それがこんな風になるんだからすごいもんだ。
たしかにあの時も綺麗な顔立ちだとは思った。けど、たった4年でここまで成長するなんて。
どこからどう見ても別人で、体つきなんてもう完全に大人のそれだ。
と、視線に気付きハッと顔を上げる。
すると永瀬の悪戯っぽい目とぶつかった。
「田中君。今、私の胸見てたでしょ?」
「は?! いやっ、見て——」
た。めっちゃ見てた。
実は否定できないくらい見てました!!
永瀬に見られてたことに恥ずかしさで一杯になった俺は両手をちょこんと膝に乗せ俯き加減になるしかなかった。
****************
続けて書きたいところでしたが文字数が長くなるため已む無くここで。次話に続きます。
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