第6話


 俺をつけてきた!? 

 いやいや何のためにだ。


 ぶんぶんと首を横に振る。



 ——「私は、あなたに一目惚れしたんです! だから助けたんです!」


 もしかして本気……だったり!? 


 い、いや。やっぱりそれは。……流石に無いよ。ね?


 ああもうっ! 

 気になってしまったものはしょうがないっ。

 俺は鼻息を荒くし、彼女の後をこっそりつける事にした。


 尾行なんてほどのものでもなかったけど、慣れない事をすると緊張するものだなと改めて思った。

 幸いにも彼女が後ろを振り向く事は無く、足が思う様に動かない俺でもスムースに追いかける事が出来た。


 そして二分程歩いた後、彼女は最寄のスーパーに入ってゆく。

 そこは元々俺が向かおうとしていた場所だった。


 なんでスーパーに……。


 もし俺の後をつけてきたのなら、わざわざスーパーなんかに寄るだろうか。


 俺は痛む足を気にしながら、買い物カゴや陳列棚の物陰に隠れて、彼女の観察を続けてゆく。


 彼女は迷う素振りなど一つも見せず、手慣れた感じでポイポイと食材を買い物カゴに放り込んでいった。

 朝食サラダセット。ピーマン3個。タケノコ1袋。牛肉……ちょっと見えにくいけど200gくらい。

 

 見失わない様に注意しながら俺もカレーの食材を買い物カゴに放り込みつつ、彼女の後をつける。 


 彼女はその後、お菓子の陳列棚を眺めて・・・・スルーし、パンコーナーで食パンを手に取ってカゴに入れた。遠くて何枚切りかは分からない。

 そして、菓子パンを手に持ち……んん~~~断念っ。って感じかな。


 もしかして。ゆ、夕食は……青椒肉絲チンジャオロースー……なのか。

 そして、食パンとサラダセットは明日以降の朝食のために。


 違う違う! そうじゃなくて。 


 完全に買い物してるよね……夕食の。


 なんで? 普通は住んでるとこの最寄りのスーパーで買うはずだよな。

 

 全然分からない。ほんとにイミフです。


 同じタイミングでレジに並ぶ訳にもゆかず、少し間を置いてから俺も最奥のレジに並び、様子を窺う。

 彼女はマイバッグらしきものを広げ、大きなサイズのものから順に詰めてゆくと、程なくしてゆっくりと店を後にした。


 急ごう。

 俺は会計を済ませるとマイバッグへ乱暴に食材を放り込み、店を飛び出した。



 「(あれ? いない……)」


 きょろきょろと首を左右に振って辺りを確認する。

 念のため上と下も見ておくか。空、電柱、屋根・・・・。当然地面にもいない。


 そこまでタイムラグは無かったはずなのに。もしかして気付かれた。


 どこかに隠れてるかも知れないけど……。

 どう考えてもこの足じゃ、探す事なんて出来っこ無さそうだ。


 はぁ、しょうがない。もう諦めるか。


 小さく溜息をつき、俺は玉ねぎやジャガイモでズシッと重みの出たマイバッグを肩にぐっと掛け直した。


 今日はいったい何て日なんだろうか。


 全くそんなテンションでも無いけれど、誰かのギャグが頭に浮かんでくる。

 やっぱり笑えない。


 念のため、帰り道中でも目を光らせてみたものの、やはり彼女の姿を捉える事は出来なかった。


 彼女の事を考え過ぎたせいだろうか、の下着映像が頭に鮮明に浮かんでくる。

 胸も結構おっきかったなぁ。


 って違うだろ! 俺は想像を掻き消すため頭を両手でわしゃわしゃとする。


 でもやっぱり可愛かったよなぁ……。


 そんな事を考えながら何の気なしにマンションへ戻る最後の角を曲がった時。


 

「っっっ!!」


 俺は一瞬声を出せず、呼吸が止まってしまう。



 角を曲がった直後の場所で、彼女は立っていた。


 

 俺は驚きの余りマイバッグをどさっと落としてしまい、ジャガイモがぽてぽてと転がっていった。

 


 



 

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