第2話 13の怪談。
そして奥様の指示に従い、空座の目の前に座り、隣同士で手を取り合った。
俺の隣は恩師、それとOさん。
だからかさして怖くは無かった。
眠る前もそう、自分よりも強い能力を持っている大人が揃っているのだから、と。
ただ、奥様と旦那さんが怖かった。
空座を挟む様に座り、机に手を置き、冷たく感じる西洋の顔が真剣な表情をしているものだから。
それこそ、彼らが悪の使い魔なのでは、と。
「では、始めます」
奥様が西洋の言葉なのか、何かをボソボソと唱え始めた。
その合間に遠くから地響きの様な雷鳴が響き始め、空座の更に先に有る窓を見ると、到着したばかりの晴天とは打って変わり。
曇天の隙間から、時折稲光が見えた。
そうしてどす黒く分厚い雲が、コチラへと向かって来ると。
稲光もまた、コチラへ向かって来る様に見え。
段々と恐怖心が湧き出て来てしまった。
けれど、両手には心強い味方が居る。
俺は平静を取り戻し、また席に目をやり、そして願った。
どうか悪しき者が現れませんように、どうか何も起こりませんように、と。
そう願っていた矢先。
目の前に雷が落ちたかと思うと、何処からか聞き慣れない声が聞こえた。
『どうして俺に来て欲しかったんだろう?』
思わず瞑っていた目を開けると、空座だった筈の席に人影が。
と言うか寧ろ、靄や何か、兎に角何かの人型が座っていた。
俺は驚いて周りを見渡すと、どうやら誰にも聞こえず、見えず。
奥様は未だに何かを唱えたままで。
《あ、あの》
『あぁ、多分、君が最も死から遠いからだろうね。それで、何でだと思う?』
《分かりません、聞いて無いので》
『んー、成程、ちょっと失礼』
彼が奥様の耳なのか頭なのか、兎に角指を突っ込むと、少し首を傾げ。
《その》
『あぁ、大丈夫、少し頭を覗いただけだから。君はこの世をどう思う?良いか悪いか』
《良いと思います、けど、どうしてですか?》
『この奥様がね。あ、この旦那さんが霊媒師と浮気をしたから、霊能者を逆恨みしているんだよ』
この儀式が失敗した後、何と奥様は俺達を殺そうとしていた、と。
くじ引きで殺す者を決め、半分を適当に殺し、その罪を夫に擦り付けようとしてる。
クソみたいな世界だと俺が言ったなら、このままこの夫婦を殺して帰ろうと思っていたらしい。
でも俺は良い世だと言ったので、暫くココで観察する、と。
《どうして?》
『面白そうだから』
声だけで、本当に楽しそうに話しているのだと思った。
そしてコレが、悪魔なんだろうか、と。
子供ながらに、どうすべきなのかを悩んでいると。
「絹を裂く様な」
《期待に応えてくれてありがとう、お酒が欲しいな》
「はーい、お酒お願いしまーす」
《にしても、以前とは違って静かだね》
「ココは比較的そうらしいですよ、先生のご家族に教えて貰ったんです、食事が美味しいんだって」
《それは君、誘われたって事じゃ》
「いえ女性ですし、そうした社交辞令も特に有りませんでしたよ」
《あぁ、でも君はモテるからなぁ》
「社交辞令ばかりですよ、それこそ神宮寺さんって意外とモテそうですよね?」
《意外と》
「意外と」
物凄い怖がりですけど、お顔は整ってらっしゃいますし、優しいですし。
女性だったら、まぁ、かなりモテてるでしょうし。
《お待たせしましたー》
《続けましょうか》
「はい、お願いします」
また、近くに雷が落ち、閃光と轟音に目を瞑り。
ゆっくりと目を開けると、彼は居なくなっていた。
「どなたかと、話してらっしゃった様ですが」
マズい、全てを知っていると知られたら。
そう思い、咄嗟に嘘を言った。
《はい、ただ空座では無く真ん中です、邪魔になるかと思い説得していたんですけど。言う事が凄く、支離滅裂でした》
「そう、ですか」
『残念だけど、どうやら失敗したらしい。私らは休ませて貰うよ』
「はい、ありがとうございました」
俺は部屋に戻って直ぐ、急いで事を伝えると。
『あぁ、神口かい』
《でも、ボクに乗り移ってたワケじゃ》
『神霊とは基本は対話だ、神降ろしはそのまま神様に体をお貸しする事だが、そうした事は滅多に起こらん。対話し、その真意をお伝えすんのが神口だよ、アンタは男の梓巫女で確定らしいね』
《梓巫女?》
『それは後だ、私はYさん所に行ってくるから、アンタは子供らしく神父さんだか何かに事情を説明してきなさい』
《はい》
そして恩師の指示通り、どっちだか分からないまま、取り敢えずはと戸の前まで行くと。
物凄い悪寒に襲われた。
今なら分かるが、虫の知らせってヤツだったらしく、気味が悪くてもう1人の方にした。
『あぁ、どうも』
《あの、さっきの件です》
『あぁ、どうして嘘を?』
そして事情を話し。
《それで、向かいのお部屋に行こうと思ったんですけど、悪寒がして》
『あぁ、では彼には伝えない様にしましょう、後は僕らで何とかしますから。君はもう寝た方が良い、子供の成長には睡眠が必須なのだからね』
《はい、宜しくお願いします》
正直、子供だったからこそ、心強い大人が居たからこそ熟睡出来たけれど。
今ならもう、違う意味で怖くて眠れないだろう、殺人鬼になろうとしている女が居る家なんだから。
「本当に、良く生きてられましたね?」
《今思うと、寧ろ今の方が怖く感じますね》
「恐ろしい、子供の鈍感力」
《無知が怖いって本当ですよね》
「と言うか、神宮寺さんは梓巫女だったんですね、成程」
《知ってるんですね、流石です》
梓巫女とは、別名歩き巫女とも呼ばれ。
特定の神社に所属せず、居を定めず、外法箱を背負い放浪する巫女。
とある説では体も売っていただとか、とある説では情報収集をしていただとか。
「僕としては、やっぱり里に降りてきた山の民だと思うんですよね」
《ほう》
「体を売っていたんではなくて、あくまでも子種を貰いに来ただけ、夫婦になれば郷に入れる面倒が出る。なら子種だけ貰った方が楽じゃないですか、そうして物品や能力を売っていた、そのついでの子種。そもそも昔から待遇が良かったのに、そうした行為をしていたと伝えれられている。となれば大の男や家族を説得するより、良さそうなのから子種だけをちょろっと貰う方が、楽でしょうしね」
《そして里や男が気に入れば、根付く》
「安全に郷を守れますし、新しい情報も仕入れられるし、人攫いに遭ったとでも言って子を郷に戻せば人はそこまで減りませんしね」
《実は、そうした血筋だそうなんですよ》
「おー、凄い、僕の予想通りだなんて。合わせてくれてます?」
《山の民については、どう思ってるのかな、林檎君は》
「様々な伝承から照らし合わせたとしても、山賊だって言うのには無理が有ると思うんですよ。そもそも人が増えれば統率するのも大変だし、盗みばかりしてもいつか餓える事になる。それこそ流浪の民、僕とは違う狩猟民族系、生きる方法が違うだけの人々だと思いますけどね」
《特徴を知ってるかい?》
「長い手足で、どちらかと言えば」
確かに、神宮寺さんの特徴と合うと言えば合う。
何処か、女性に魅力的だと思わせるような雰囲気だとか、僕より背丈が有るので長い手足だとか。
《ふふふ、こうして女性を引っ掛けると良いよと、J先生が教えてくれたんですよ》
「もー、凄い巧い手ですけど、僕に使ってどうするんですか」
《全くだよね、君が女だったら良かったのに》
「今しがた僕もそう思いました、神宮寺さんが女だったら、さぞ魅力的だったろうなと」
こうして、時に人は男色家になるんでしょうか。
それとも折口先生の様に、男とは潜在的に男色家の。
《話を、続けましょうか》
「ですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます