第129話 街の二人と森の二人その4
俺は、もうひとつの相談事を持ち出す事にした。
「この子の今後の事なんですけど…」
先生は、さっきより真剣な表情になった。
自身の知的好奇心や趣味の話と違う、子供の将来の話。前の街で教師をしていた男は、敏感に反応した。
この子の表情も変わる。天気の話が自身の話に変わって、すぐに俯く。俺の傍に立っていただけだったが、俺の服の裾を小さく握った。
「色々と事情がありそうだね…」
「過去の話はしません。今後の話です。その…。学校に通わせてあげたくて…」
「面白そうだ」
先生は、真剣な顔つきのままそう言った。
わたしに向かって、フランさんは言う。
「外さないで下さいよ」
集中したいから返事はしない。筒をしっかり構えてよく狙う。的には当たる距離だけれど、狙った所に当てたい。まずは首筋。
「ルオラ。離れてて」
数歩離れたルオラは、新しい杭を足元に打って縄を縛り直す。その後、エブさんに渡された防毒面を付けてしゃがんだまま待つ。縄のおかげで、動物は大きく動かない。この道具で決着を着ける。
魔法の風を筒の中に送り、込められた針を飛ばす。筒先から出た針からは、殻の部分が三つに別れて外れた。その殻は、風で舞ってから近くの地面に落ちた。針は高速で飛び、狙った所に当たった。
針は、動物の鎧を貫通する。
小さな叫び声を上げる動物。飛び上がるが、網と縄のせいでどこにも行けない。その場に落ちて、中途半端に丸まった。さっきみたいな球体にはなれなかった。
「次、下さい」
後ろに手を出して次の針を要求する。後ろは見ないで受け取って筒に込め、発射する。
「ごめんね」
小さな声で謝った。きっと、風の音で誰にも聞こえないだろうと思った。
俺達は病院から戻り、夕食の支度をする。
「学校って、行った事無いだろう?」
俺の問い掛けに、この子は小さく頷く。
「勉強する所だけど、その事よりも学校の中で色々な事を見て欲しくてね」
この言葉には頷いてくれない。
「急だったかな? 行かなくてもいいんだ。ただ、行く、行かないの選択はして欲しいんだ」
戸惑う様子に対し、こちらも落ち着かない。
「まあ、行かないでもいいか。また考えよう」
少し焦り過ぎたかもしれない。反省しよう。
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