第130話 曖昧な答え

 私は、自身の息が整うのを待っています。


 リージュさんが飛ばした何かは、合計五個でした。全部命中した後、動物は足元がおぼつかなくなって倒れました。目を閉じて浅い息になったので、エブさんが近づいて注射をしました。私は、引っ張っていた縄を緩めてその場に座ります。


「防毒面は外してください。多分要らなかったです」


 彼に言われて、面を外します。


「なんだか疲れましたね」


 リージュさんの方を見て言うと、返事があります。


「疲れた。もう当分の間、こういうのはいいかな…」


「動物、生きていますから。そんなに緊張しないでいいです」


 自信の無い声のフランさんは、静かにそう言いました。


 リージュさんと一緒に並んで座り、組織の連中が動物を引き上げていくのを見守ります。報酬は、明日以降で払ってもらえるらしいです。


「リージュさん、明日は何の仕事をしましょうか?」


「明日は休もう」


「そうしましょうか…」


 明日はお休みです。絶対にお休みです。






 わたしは、空回りしただけだったのかもしれない。


 遺跡でわたし達を救おうと覚悟を決めたジオの真似をして、目的と覚悟を決めてみた。病院の強盗退治の時とたった今。


 自身が傷ついてでもわたし達を守る覚悟をした彼と、相手を傷付ける覚悟を決めたわたし。全然違う。そして、結果も全然違う。彼はわたし達を守って目的を達したけれど、わたしが狙った相手は両方生きていて、目的を成し遂げていない。


「はぁっ…」


 前を見つめているけれど、どこにも焦点が合わない。靄がかかったような景色を見つめる。


 働いている組織の連中は自身の役割を分かっていて、無駄の無い動きをしている。動物の様子を見て、記録を付けている者。網を片付けている者。落し物が無いか見回っている者。


 暫く見ていて気付く。急に焦点が合う。そこに見える人達は、誰も悲しい顔をしていない。


「いいのかな? これで…」


 わたしは、病院では人質になった看護師さんを救い、今日は堤防を守った。必死だった。


 ジオがしようとした事って、こういう事? わたしもちゃんと守れたのかな?


「どうかしましたか?」


 優しいルオラの問い掛けに対し、黙って首を横に振る。


 この事は、暫くの間は曖昧なままにしておこうと思った。少しだけ時間が経ってから思い返せば、何か答えが出るような気がした。どんな風だったか、忘れないでいようと思った。

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