第121話 役割と規則
わたしは、農家で借りたあの部屋で目を覚ました。
昨日はジオを連れて四人でここに戻り、夕食を取って早めに休んだ。
お爺さんとジオは、ちょっとした感動の再会だったみたいで、車椅子に乗ったままのジオと力強い握手をしていた。顔見知り程度のような話ぶりだったけれど全然違った。変な嘘をつく奴らだと思った。名前は、ガリユさんというらしくて、年は離れていても気の合う遊び相手だったらしい。
朝食を取りながら話をする。
「ルオラ。仕事をしに行こう」
相談した結果、ジオは当分の間療養してもらう事にした。もう立って歩けるみたいだけれど、飛んだり跳ねたりはまだ無理そうだ。
全部ではないけれど洗濯はしておいて欲しいし、水汲みや他の家事もあるから、家の周りを出ないようにしながら何かしていて欲しい。そうしていれば、少しずつ体が動くようになるはずだ。
まだ話をしてくれないあの子は、ジオの身の回りの世話をして欲しいと頼んだら頷いてくれた。通院の付き添いくらいなら任せてもいいだろう。ジオと協力して、家事もしていて欲しい。
その間に、わたしとルオラがお金を稼ぎに行く事にした。二週間から最長で四週間くらい。これだけ期間があればそれなりに稼げるはずだし、ジオの体調だって戻っていそうだ。
「仕事に行くのはいいですが、ここにどちらかが居なくて大丈夫でしょうか? 組織が警備もしてくれるって言ってましたが、信じますか?」
ルオラの意見は当然だけれど、ジオを守る役割は居なくていいらしい。病院の職員は、退院の手続きの時にそう言った。
「うーん。そう言われると…」
あの日、地下室で見た組織の技術は、わたし達の想像を超えていた。驚くような事が何でも出来そうだった。
「組織がこの家に何かを付けていったんだろ? 魔法のかかった道具だろうか? 効果を試してみればいいんじゃないか?」
ジオは組織の調査に行っていないが、わたし達の話を聞いて情報を整理し、何かを悟ったようだった。
試してみる? どういう事?
組織の連中が説明した通りの操作を始める。家の中に付けられた灰色の小さな箱には鍵が刺さっている。
「じゃあ、この鍵を捻るぞ」
ジオが操作をして様子を見る。灰色の箱は、中に火が点いたみたいで、小さな赤い点が光った。燃え出す様子は無いから、四人全員で家の外に出る。
「柵の所に何個もついてる黒い箱同士の間を横切ってはいけないと言っていましたね…」
ルオラは、黒い箱のいくつかを指差して言った。鍵を捻ってある間は、外に出ないようにと言われている。
「やってみるね」
してはいけないと言われた事をやってみる。わたしが箱の間を歩いて横切ってみる。何が起きるか分からないけれど、少し楽しい。
鳥の雛が鳴くような音が急に響く。それも、とても大きい音。
「何これ…」
「嫌な音だな。寝てたら飛び起きるだろ」
「こんなの聞いた事ありません」
「……」
わたしの近くの黒い箱ふたつに、小さな赤い明かりが灯る。混乱しているうちに、そいつらはやって来た。
武器を持った黒っぽい服のそいつらは、少し怒りながら言う。
「試すみたいな事するのはやめて下さい。警備装置が反応したら、すぐに来ないといけない規則なんですから…」
溜め息を小さくついた二人は、例の地下室の入り口から走って来たみたいで、その方向へ帰っていった。
音が鳴って組織の人間が飛んでくる? 黒い箱には、どんな魔法が掛かってるの?
彼らは、ジオを守る警備員だ。よく分からないけれど、これなら少しくらい留守にしても大丈夫そうだと思った。
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