第106話 敵か味方か
わたしが病院に戻ると、ルオラが一人で怒っていた。
「何、ちょっと、何かあった?」
彼女の機嫌が悪いのを久々に見る。わたしと打ち解ける前だから、随分前だ。こういう時の彼女は、表面と内面に相反する意見を抱えて困っている。
「理解に苦しみますね…」
何があったか分からないけれど、こっちにとっても彼女の本音を理解するのは難しい。ただ、表の意図は話してくれるだろう。
「こっちは、森に置いてきた装備品をみんな回収出来たよ。ダニーにも会ったし」
「そうですか。よかったです」
「鞄の中身が揃ってるかは、ちゃんと見て。中身だけ盗ってくなんて事、無いと思うけれど…」
「そうですね。後で見ます」
「次はどうしようか?」
「そうですね。今度は、私が出掛けますね」
「分かった。装備は受付に預けてあるから」
「はい。居ない間に組織の人が来ました。何もされませんでしたが、気を付けて下さい」
「嘘? それ、ちゃんと説明してよ」
「そうですね…」
彼女の説明は整然としていた。あんな事があった翌日に、原因になった奴らが目の前に現れた。その事に腹を立てて、理解に苦しむと言った。その気持ちは分かる。けれど、この時に他に思う事があったに違いない。その内容は教えてくれなかった。
わたし達の事を放っておかずに謝罪に訪れた事。
おそらく彼女は、こんな僅かな態度の変化に対し、僅かに心を揺さぶられた。ジオの怪我の酷さには見合わない態度であっても、怒りの炎を僅かに小さくした。それが彼女の強さと優しさの理由で、わたしにはまだ無いものだった。
わたしの心は単純で、組織が敵対的でなかった事が良かったと思った。
探したい人がいて、私は街を歩きます。
困り果てている今の状況で、助けてくれる可能性のある人。軍にも冒険者組合にも頼れない今の状況で、親身になってくれる可能性のある人。会った事は無いですが、信じられると思う人。ジオさんのご家族を探しに行きます。
農業をしていて、第三城塞都市から移ってきた人。ジオさんから聞いた手掛かりは、それだけです。農作物の売買を取り締まる農業協会を回って情報を集めます。その後は、走り回って見つけましょう。
一軒目、間違いでした。初老の夫婦は、働きながらの旅の途中らしいです。
二軒目、ここも間違いでした。第一城塞都市から来た人でした。
三軒目、そもそも移ってきた人が居ませんでした。
少しずつ暗くなってきました。国境に近い第三城塞都市では城壁の外に家を建てるのは制限が有りましたが、ここでは違います。城壁の外の農家はそれぞれ離れているので、訪ねて回るのに時間が掛かります。
着いても、すぐに責任者の方に会えるわけではありません。出掛けていれば戻るのを待ち、畑に居ると言われれば探しに行きます。漸く話を聞く事が出来ても、人違いと言われると力が抜けます。
人を探すのは大変ですね。今日中に見つけるのは難しいかもしれません。また明日にしましょう。
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