第103話 言葉
ルオラの言葉は、わたし達二人共にとって胸が痛い言葉だった。
この答えに至るには、いくつもの手順が必要で、一足飛びに出てくる言葉ではない筈だった。この会話を他の誰かが聞いていたら、脈絡が無くてきっと意味が分からない。どうしようも無いわたし達には刺激が必要で、彼女は結論だけを切り取って先に言った。
本来、こんな会話が有るはずだった。
「森から戻る際中は気が気じゃなかったですけれど、とりあえず良かったですね」
「そうだね。あのお医者さんは、徹夜で治療をしてくれたのかな?」
「きっとそうです」
「これからどうしたらいいの?」
「どうしましょうか…。まだ何も…」
「ジオが無事なら、きっと何か考えてたよね…」
「そうですね。ジオさんなら何かきっと…」
「ジオに比べて、わたし達って…」
「頼り無いかもしれないですね」
森でわたし達を守ったジオ、徹夜で仕事をした医師、この二人に比べてわたし達は何をしていたのか…。
必死で森から逃げ戻り、医師にジオを預けた後、わたし達は考える事を放棄していた。目を覚ましたジオが、何か意見をくれるのを待っていた。それが叶わない事も想像がついていたのに、それでも言葉を待っていた。
ジオが治療を受けている間の行動は、二人で話し合って決めないといけなかった。その行動の方向性くらいは、ひとつかふたつ、もう決まっていて当然だった。
もし怪我をしたのが二人のうちのどちらかで、ジオが無事であったなら、森に居るうちに魔法で治療を受けられた事は間違いが無い。
その事は差し置いても、他の心配事に対して、いくつも考えが挙がっているに違いなかった。本当ならその時に、彼が納得するような意見がひとつくらい言えて一人前だ。
ルオラはわたしの事を十分に分かっていて、反省すべき点は理解出来ていると判断した。だから、手順を追った会話を飛ばして結論を言った。そして、わたし達二人が頼り無いと言うべきところで気を遣って、私と言った。
彼女が言った言葉は、わたしの中にも在ったけれど、わたしは口に出せなかった。これが彼女とわたしの違いで、わたしが未熟者である証だった。だから、わたしの表情は彼女よりも少し暗くなる。
ルオラは、わたしに体を寄せてから言う。
「少しだけ、少しだけ考える時間をくださいね」
進むべき道を見失ったわたし達は、出来る事をひとつずつやるしか無かった。
ジオが目を覚ますとか、声を聞くとかいった事。それがひとつの区切りだと思って、弱いわたし達は進むしかない。
昨日の事の後悔しか思い浮かばない頭を切り替えて、先の事を考えないといけない。まずは、ルオラと話し合おう。
「決めました。まず、これをしましょう」
ルオラは、ほんの少しだけ気持ちを切り替えたようだった。
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