第101話「一日の終わり」
ルオラが連れてきたのは馬車。親切でここまで来てくれた病院の職員。やっと着いた大きな病院。すぐに処置室に運ばれるジオ。わたしとルオラは廊下で待つ。願いは同じで、ジオが早く回復する事。早く声が聞きたかった。
処置室から顔を出した医師は、優しそうな人族の男性だった。この医師が患者を離れたのは、応急処置が終わったからなのか? 手に負えないので応援を呼びに来たのか? 聞きたくない答えが返ってきたら怖いけれど、聞かないといけない。
「あの…」
言葉が続かないわたしに、医師は静かに返事をする。
「君達も診てもらうといいですよ。こっちは手が離せないので、違う誰かにだけれど…」
「あの…」
ルオラも同じで言葉が続かない。
「大丈夫。大丈夫だよ。まだ治療魔法を続けないといけないが、心配は要らないから」
きっと、この医師は同じような患者を何度も診ているのだ。わたし達は、優しい声に落ち着く。窓の外は夜が迫って来ていて、漸く一日が終わる気がした。
「ここに来るまでに少しだけ治療魔法を使ったんだね。そうでなかったら大変な事だったよ」
おかしな事を言った。森から戻る途中、わたし達は誰とも会っていない。返事は出来ないけれど、今はジオが無事ならそれでいい。
「さあ、まずは診察を。その後は待合室で待っていて」
医師が治療に戻って欲しいから、言った通りにする。ルオラと並んで診察室を探す事にする。
「早く治療を終えて、何か不思議な経験をしていないか彼に聞かないといけないしね」
処置室の扉が閉じる前、小さな声で医師が言った。その意図は分からなかった。
私とリージュさんは、待合室の椅子で眠っていました。
昨日の悲惨な出来事が嘘のような穏やかな朝でした。私達の他に静かな部屋に居るのは、心配そうな顔をしたまま眠る知らない誰かです。きっと怪我をした誰かを担ぎ込み、私達と同じように不安なまま眠ったのでしょう。何も悪い事が起きていないから、私達を呼びに来る職員は居ない、そう考えていいのでしょうか…。
私の方に寄りかかっているリージュさんを起こさないように寝かせて、私は立ち上がります。夕食のお皿が机の上にそのままなので片付けましょう。
治療魔法を使ったのはリージュさんですね…。
昨日のお医者さんが言った事について、確信があります。森から帰る途中、ジオさんに触れていた手が薄っすらと光っていたのは分かりました。本人に自覚は無かったでしょうか…。後で伝えましょう。
「お二人共、風の魔法と治療の魔法が使えるのですね…」
私も、もう少し眠る事にします。この後どうするべきか、起きてから考える事にしましょう。せめて今日が穏やかでありますように。
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