第84話「遺跡への道」
翌朝、わたし達は、装備を固めて北の森に向かって歩いていた。
街の北には、細い馬車道が伸びている。左右には農地が広がり、目的地の森が正面の遠くに見える以外は目立ったものは無い。振り返って街が小さく見えるくらいの所まで離れると、どこかに隠れていたダニーがいつの間にか寄って来ていて、一緒に歩く。
たまたま近くに居たのか、何かで察知したのか分からないけれど、どんな危険があるか分からない今は、彼が居れば心強い。意思の疎通が難しいけれど、わたし達三人と一匹の中で一番強いのは彼だ。彼の旅の目的が分かれば、お手伝いをしてあげないといけない。
森の入り口には冒険者組合の立て看板がしてあって、最近変わった動物が居る事、見かけたら組合に連絡して欲しい事、自分の身は自分で守って欲しい事などが書かれていた。これだけで噂が本当だと思った。
「噂話は、相当広がってるみたいだね…」
「そうだな、だが…」
「誰も正体には辿り着いていませんね…」
もしかしたら冒険者組合だって、何かの魔法が絡んでいるんじゃないかって事くらいは想像しているかもしれない。けれど、不思議な宝石が関係しているかもしれないとは思っていないはず…。冒険者組合が宝石の事を知っていたら、入会しているわたし達に教えてくれていい。だから、きっと冒険者組合は宝石の事を知らないんだと思う。
「さて、ここからどうするの?」
捜索を始めるのに、ジオの意見が重要だ。
「ああ。森の中は細い道があって、迷路みたいにあちらこちらで分岐して入り組んでいるそうだ。下手に分かれて進むと誰かが迷子になりかねない。かと言って、全員でまとまって行動したら効率が悪い」
ジオは、どこで森の情報を仕入れて来たのか? いつも思うけれど用意がいい。
「でしたら、二手に分かれますか?」
ルオラの意見に賛成だ。二人ずつで行動するのがいい。といっても、一匹は狼だけれど…。
「探知魔法が使える俺とリージュは別行動だな。何かあった時の事を考えると、相談し合えるように、リージュはルオラと行ってくれ。何も無くても、お昼頃にはここに戻る事にしよう」
いやいやいやいや…。違うでしょう。
ルオラが俯いている。わたしのやる事はひとつだけ。
「わたし、ダニーと仲いいし、一緒に行くから」
「いやいやいやいや、何があるか分からないんだぞ」
ジオの意見は聞かない。
「行くから」
「いや…」
「行くから」
ジオが諦めるまで暫く時間がかかった。全く面倒な奴だ。
俺は、ルオラと一緒に森の中を進む。
森の中は、枝葉が茂っていて見通しが悪い。道は、曲がりくねっていて先が見通せない。魔法が無ければ、すぐ傍に動物が潜んでいても気付かないだろう。
本来であれば魔法使いの俺が後ろを歩くべきなのだが、今日は俺が前を歩く。動物を探すのが目的だから特に危険は無いだろう。彼女は俺の後ろをゆっくりついてくる。周囲への注意は必要だが、考え事に時間を使いたい。
この街での組織の行動が気になって仕方が無い。何かが引っ掛かっている。宝石を探している組織は、一体、いつ頃から存在しているのか?
つい最近に出来たばかりで、積極的に宝石を探しているのかと思っていたが、宝石自体はずっと昔からあるらしい。それならば、組織もずっと昔からあるのではないか? この事を勘違いしていると、正しい判断が出来ないかもしれない。
二人になってから、彼女は俺に聞きたい事があるらしく、考え事の最中にいくつか質問をしてくる。
「ジオさんは、第三城塞都市で生まれたんですか?」
今は、彼女の質問が少々面倒だ。
「ん、そうだよ…」
もしかしたら、組織もずっと昔からあるのではないか?
そうであれば、何故今頃になって、あちらこちらに聞いて回って宝石を探しているのか? この街だって昔からある。こんな街なんて端から端まで、ずっと昔に探し終わっているはずなんじゃないのか? 何かが不自然なんだ…。
「あの、ジオさんは、いつまで冒険者を続けるおつもりなんですか?」
「ん、分からないな…」
何かの理由があって、たった今この街を再捜索する事に決めたのか?
本来、珍しい物であれば誰もが欲しがるはず。だから、そんなものを探す時は、多くの人に知られないようにもっと隠れて探してもいいはずなんだ。それを一般の人に表立って聞いて回り、捜索の様子を隠していない。街の情報屋なんかを通じないでも、俺達の耳に情報が入ってきている…。
「別れ道です。どちらに行きますか? 左にしてみますか?」
「そうだな。そうしよう…」
確かに、前の街でも組織はなりふり構っていなかったんだ。
宿で襲われた時、街中を逃げる時、訓練場の中、どこでも人目を気にするような様子は無かった。何か宝石を集めるのに期限のようなものがあって、時間に追われている? 或いは…。
「見て下さい。あの鳥、羽が綺麗で可愛らしいです。二羽で並んで仲が良さそうですね」
「そうだな」
組織の邪魔をしている奴が居るとか?
最近まで姿を隠していた組織は、順調に宝石を集めていたと仮定しよう。俺は、そんな組織があるなんて知らなかった。聞いた事も無かった。最近になって、組織の活動に支障が出始めた。思ったように宝石が集まらなくなった。だから方針を変えて、表立って活動し始めた…。
「ジオさんのご家族は、どちらに見えるんですか?」
「ん、引っ越して、この街に居るはずだよ…」
思い当たる事がある。
クローだ。あいつが宝石を集め始めて、組織の活動に影響が出ている。見つかるはずの宝石が見つからない。だから、なりふり構っていない。この想像を否定する要素は、何も見当たらない。確信に近い何かを感じる。勘が当たりそうだが、全く嬉しくない。
「ジオさん、ジオさん、聞いてますか?」
「何だ、一体…」
待てよ、宝石探しの女は、間違いなく組織の一員だよな?
誰でも宝物があるかもしれないと想像して、探しに来そうなこの遺跡。ここに、今頃になって組織が来るとしたら、何故だ?
「ジオさん!」
探知魔法では動物を見つけられていなかった。いつの間にか、森の奥深くに進んで来ていた。
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