第59話 夜の見張り


 私は、また早起きをしてしまいました。


 旅に出て四日、この数日、夜の見張りが無いので体の調子がいいです。その分、早く起きてしまうのでしょうか。良いのか悪いのか分かりません。


 空を見上げると、今日はまだ星が出ています。もう少ししたら陽が昇って、みんな消えてしまいますね。星が何なのかは私には分かりませんが、惹かれるものがあります。いつかその秘密を誰かが見つけられたらいいですね。


 焚火の方を見ると、その向こう側に何かが落ちています。まだ暗いので、詳しく見えませんが、兜くらいの大きさです。明るくなったら寄って行って調べましょう。いい予感はしません。


 毛布を頭までかぶって明るくなるのを待ちました。ジオさんもダークエルフの人もまだ起きません。少し明るくなったので、調べに行きます。


 やはり落ちていたのは兎でした。前とあまり変わらない大きさです。一体どういう事でしょうか。手袋を付けて持ち上げると、後ろで声がします。


「おはよう。また狩りしてきたのか? この間の、美味しかったぞ。いつも有り難う」


 違います。違います。そう言おうとしたのですが、慌ててしまって声が出ませんでした。期待通りに焚火で燻製にします。我ながら手際は良いです。


 今度は、手に取る前にジオさんを起こす事にしましょう。私がやっているんじゃありません。






 俺達はそろそろ追手の警戒をしないといけない。


 旅は四日目を迎えて、今のところ移動自体は順調だ。天気もいいし、クローの追手も組織の追手も見当たらない。


 しかし、今晩から夜の見張りを始めようと思う。緊張感が無くなり過ぎるのは困るし、仕事をしているような感覚があれば、あの二人が必要最低限の話をするかもしれないからだ。


 明日の晩からでも、明後日の晩からでもいいのだが、夕方に宿場に着いたら二人に相談しよう。

 





 夕方、わたしはジオの相談に、今晩からでいいよと答えた。


 宿場町は相変わらず逆方向の旅人達で賑わっていて、わたしの過ごしやすい場所は無さそうだった。逆の方から来ているのだから、この中には追手は居ないと思う。


 今晩の見張りは、わたし、ジオ、あの人の順番に決まった。これで今夜のうちはまだ、あの人と話さないで済む。ジオとの会話も少ないから、このところ、焚火とお星様だけが話し相手になっている。


 見張りの時間は三時間程。見つからないように隠れているわけじゃないから、二人を起こさないように焚火の近くを歩く。剣を抜いて、何も無い闇に向かって構える。


 剣術が得意というわけじゃないから、剣を握る感覚が鈍らないか余計に心配だ。三回、闇に向かって剣を振る。誰かを斬るような想像はしていない。体を動かしていた方が、気が紛れる。


 続けて柔軟体操と腕立て伏せ、荷台から降ろしておいた小麦粉の袋を爪先に乗せて、腹筋運動をする。寝転んで見上げる夜空は今夜も綺麗だった。






 私の起きる時間は、段々早くなっています。


 見張りの当番の始まりは、夜明けの三時間前くらいでしょうか。


 ジオさんに優しく起こしてもらうと、落ち着かなくて心臓の鼓動が早くなって治まりません。本人は、すぐに寝付いてしまいました。少し気にして欲しいですが、昼間に寝ていなかったのは知っているので、仕方ありません。


 宿場町に人が多いとはいえ、こんな時間に起きている人は居ません。音を立てないようにすれば、少し体を動かしていても大丈夫そうですね。体を動かす感覚が鈍らないようにしておきましょう。


 じゃがいもの袋と小麦粉の紙袋がひとつずつ、擦れて破れそうになっています。私以外に重しに使っている人が居ますね。破らないように注意しないといけません。


 体を動かしていると、その時だけ悩みを忘れてしまいます。もしかしたら、同じ想いで体を動かしている人が近くに居るのかもしれません。

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