第55話 旅立ちの前日

 わたしは、朝になって起きるとすぐに、街中に出掛ける事にした。


 旅の準備は出来たから、街を離れる前の最後の日は人通りの多い街角に座って、この街の人々を眺める。夏の日差しの中、汗をかいて仕事をする人、商店に立ち寄り買い物をする冒険者、どこかに歩いて行く兵士、誰もが擦れ違い歩いて行く。


 どれもが日常の風景で、他の誰もこの事に関心が無い。


 わたしは、ダークエルフ領から遠いこの街に、ずっと前から来たかった。この街に着いてすぐ、一年前に起きた戦争の跡を見た。人々が暮らす街並みも見た。軍の基地も見た。どれも想像していた通りだった。 


 あの戦争が無ければ、今日のこの場所には違った人々の顔があったのだと思う。この街は、その事を忘れようとしている。忘れなければ前を向けない人がたくさん居るのだろうから仕方が無い。わたしは、忘れるべきかをまだ迷っている。


 明日に街を離れたら、当分この街には来ないだろう。今日はずっと街を眺めていて、夜はぐっすり眠って、明日に備えよう。






 私は、引き払う予定の自室で手紙を書いています。

 マイカにまた会えますように。病気にも怪我にもあいませんように。あの時言えなかった事は、全部書いておきましょう。


 部屋の管理人さんに片付けが終わった事を言いに行くと、もう次の借り手が決まっていると言っていました。急に部屋を出ると言ったので困らせてしまったかもと思っていましたが、大丈夫そうです。


 今日の夜は、予約しておいた宿に泊まりましょう。明日の朝は早そうですし。

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