第54話 心構え
俺は、三時間くらい寝ていただろうか。
昼前に目を覚まし、大きな溜め息をついてから片付けを始める。
ルオラの仕事に持っていった荷物は俺の私物の一部で、組合の貸倉庫に大半が置いてある。薬を乱雑に打ち捨てられたのは困ったが、まだ使えるものはあるし、薬屋で簡単に買えないような希少品は最初から殆ど無い。踏まれて汚れた衣類は洗濯するとして、早く片付けを終わらせてしまって、宿を引き払おう。
まずは、馬車の手配をしておかないといけない。街同士を結ぶ乗り合いの馬車だってあるのだが、見ず知らずの客に組織の者やクローの部下が居ても分からない。俺達だけで移動したい。
準備が今日中に終わるかは分からないが、念のため明日から使えるように予約しておこう。三人だから小さな馬車でいい。屋根は付いていた方がいいだろう。少し気が早いだろうか…。
その後、組合の倉庫に移動して、預けてあった荷物を整理する。要らないものと多すぎる買い置きの薬を売って換金する。難しい事はしていないが、時間はすぐに過ぎてしまう。夕方になったので二人と合流しよう。
組合の待合室に急いで着いたが、二人はまだ来ていなかった。
二人の準備はどうなっているだろうか? 武器や衣類なんかの私物を準備したら、三人で共有するものの準備をしないといけない。
都市と都市の間の街道には点々と宿があるが、毎日宿に泊まる事は出来ない。宿と宿の距離が遠く、一日で辿り着けない区間があるからだ。およそ二日に一回は、野宿をする事になるだろう。
夏の終わりの時期だから、街道そばの森で少々の木の実やなんかは現地調達出来ると思うが、ある程度の食品は持って出発しないといけない。煮炊きに使う薪も少々確保しておく方がいい。街を出る当日は、朝早く起きてこの準備をして出発だろう。
あれこれ考えながら待っていると、二人が現れる。空いている席について話を始めよう。
わたしは、買い物をあらかた終えてからここに来た。
つい先日、わたしは第二都市からこの街に旅して来ている。その道を戻るだけだから、今からの旅に必要な知識はある。
「旅の準備は出来たか?」
ジオの問い掛けには、何か引っ掛かるものがあった。
「うん。大丈夫」
そう答えたが、彼はわたしの事情をどこまで察して言ったのか?
わたしは、この街に住んでいたわけではないから荷物は少ない。二人とは事情が違い、処分する荷物は無い。寧ろ、連中に荒らされて処分した分の荷物を買い足して旅の準備をした。そこまで見越しているのだろうか?
「よかった。準備が早いな。お前は、今夜泊まる所があるか?」
「無いけれど、組合の無料宿泊所に強引に入っていくつもり」
「そうか。満員でも、俺もそんな風にしようかな。それと、食べ物はまとめて買うから、買わなくていいぞ」
「うん」
わたしの勘だけれど、ジオの様子に何か違和感がある。旅の準備に張り切っていて、浮ついている気がする。
この男、街から街への旅が初めてなんじゃないの? これは見返してやる機会かも。この事だけは、急に楽しみになってきた。
私は、食べ物という言葉に敏感になっています。
そもそも食べ物という言葉は、日常会話から切り離せません。なんて失敗をしたのでしょうか…。動揺しないようにしないといけません。
「準備の方はどうだ?」
ジオさんが私を見て聞いてきました。表情が変わらないように、顔の向きをあまり変えずに目線だけを動かして返事をします。
「はい。要らないものの処分は終わりました」
私は、ずっと西にある王都で軍に入り、配属が決まってこの街に来ています。一年くらい前ですが、旅の知識はあります。
「それで、明日、部屋を引き払ってお終いです」
「そうか。それなら、今夜泊まれる所はまだあるんだな?」
「はい」
「俺の準備も明日までかかりそうだ。出発は明後日になるかな」
「では、私も明日の夜に泊まれる宿を確保しますね」
「そうだな。任せるよ」
それにしても、ジオさんと旅が出来るのが嬉しいです。ダークエルフの人とは、道中でどう付き合ったらいいでしょうか? 考えておかないといけません。
話し合いの後、俺は組合の無料宿泊所に向かう。
大きな部屋の中は、人でいっぱいだった。寝ている冒険者とその荷物で、床は足の踏み場も無い。
誰かを踏まないように部屋の中を慎重に移動して、なんとか膝を曲げて横になれる場所を確保した。仕事の話をする声や足音なんかがずっと聞こえていて騒々しいうえ、夜中でも人の出入りが出来るように、明かりは消される事が無い。
繊細な人には耐えられないかもしれないが、慣れているから俺は眠る事が出来る。全く気にならない。
馬車での移動は快適とは思えないから今日と明日くらいは足を延ばして眠りたかったが、そこは我慢するしかなさそうだ。明日は、荷物の残りを片付け、明後日の出発に備えよう。
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