第50話 「説明」

 俺とリージュは集合場所に着いていた。


 訓練場は広く、外周の柵はどこも同じような形に見えたが、その場所だけは近くに高い木があり、それが目印になっていた。


 訓練場の外周にあたるこの辺りは、誰も草刈りをしないようで、雑草が生え放題になっていた。隠れる場所には困らない。ルオラが来るまで茂みに隠れていよう。


 それにしても、今夜の行動はかなり無理があった。正直、作戦と言えないくらい無茶だった。かなり後悔している。




  


 わたしとジオは、集合場所の近くで隠れて一緒に待つ事になった。


 あの女の人はすぐには来なかった。ジオが待つと言い出して、すぐの事だった。彼は急に立ち上がって言った。


「もう待てないから、ちょっと見てくる」


 ジオがいつもと違う雰囲気になった。ちょっと面白い。わたしも立ち上がって、目の前に立ち塞がって言ってやる。


「待って、待って、待って。今来たとこでしょ? 全然時間が経ってないし」


「いや、あいつが怪我をして動けなくなってたら、俺のせいだ」


「待って、待って、待って。ここで待つって言ったでしょ?」


「万が一って事もある。兵士が五百人くらい捜索に来てて、陽動を全部あいつ一人に任せたんだぞ。心配だ。待っていられない」


「待って、待って、待って。兵士の人数ってそんなだった? 陽動は一人じゃないし」


「俺の作戦が駄目だったかもしれないんだ」


「待って、待って、待って」


「だが…」


 彼が狼狽えているのは面白い。会ってからずっと冷静だったし、ここに来て急に変になったのは不意を突かれた。笑わずにいられるのも限度がある。今だけは、あの女の人が早く来ないと困る。


 彼は面倒見が良い性格だと思っていたが、反面、何かのきっかけで過保護で心配性になるのか。わたしはそれに助けられて生きていられるのだけれど、他の人を心配している時は困ったものだと思う。


 そんな事を考えているうちに、あの女の人が到着した。


「すみません。遅くなりました」


「そろそろ探しに行こうかと思ってたところだ」


 ジオがいつもの様子に戻った。もう面白くない。この女の人にさっきのを見せてあげたい。


「ちゃんと捜索隊から逃げてきました」


「よかった。怪我は無いか?」


「ありません」


「そうか。なら、早くここから移動しよう」


 この女の人、何人に追われていたのか知らないけれど、無傷なの? ちょっと信じられない。


 覆面の連中はやっつけたし、一先ず宿に戻ってみる事になった。荷物や武器を持っておきたい。その移動中に、わたしの知らない事情を説明して欲しい。






 俺達は、暗く静かな夜道を歩きながら話をする。


 今は俺達を追う者は居ない。


 さほど広くない馬車道を並んで進む。俺が真ん中を歩き、左右にルオラとリージュが並ぶ。雲が動くたびに月明かりが遮られ、辺りは明るくなったり暗くなったりを繰り返す。しかし、道は平坦で、暗くても転ぶ事は無いだろう。


「今日分かった事は、宝石を集めている組織があるという事。あの子供も覆面の連中もブロも、宝石を狙っていて俺達をつけ回してたんだ。どれぐらいの規模で、何が目的で宝石を集めているのかは分からない。


ただ、おそらくクローとは関係が無いだろう。クローが一人で動いているのか、国王軍の指示で動いているのかは分からない。どちらにせよ、組織とクローの間に立たされている俺達の今の状況は面倒だ」


「あの…、宝石って何の話ですか? それとクローさんって何者ですか?」


 ルオラは両方知らないんだった。もう巻き込んでしまった彼女に、何も話さない訳にはいかない。後で詳しく説明しよう。


「宝石は、魔法を宿した特別で希少な石だ。クローは、その宝石を狙う悪い奴だ」


「そんなものがあるんですね」


「また詳しく説明するよ。それよりもルオラに聞いておきたい事がある」


「何ですか?」


「あの時、魔法の伝言を聞いたか?」


「光った時ですか? 聞きました。なんだか難しかったです」


「俺の聞いたものと比べたい。多分、マイカは聞いていない。教えて欲しい」


「ええと、待ってくださいね。最初の言葉は、正確な数は分かりませんって」


「宝石は百以上あるだろうと言ってたな。そして、この世界が今の形になる前に…」


「大きな変化が何度もありましたって。覚えているものですね。一回しか聞いていないですが…」


「続きだ。大昔、この大地に湖や海は無かった。雨という変化があって、湖や海が出来た」


「ええと、最初は小さな生き物しか居ませんでした」


「その後、生き物は大きくなって、人を食べてしまうような竜がたくさん居た事もあった。星が降ってきて爆発して、竜は殆ど居なくなった」


「この宝石を使えば、何でしたっけ?」


「星が降ったり、世界が凍ったりする。他にも違った力がある」


「誰が作ったか分からない。神様かもしれないって言ってましたね」


「ひとつひとつでは、込められた力の僅かしか発揮しないが、集めては駄目だ。集めるとひとつひとつの力が強化され、本当の力が発揮されてしまう」


 ここでルオラと俺の声が揃う。


「間違って使うと世界が壊れます」


「間違って使うと世界が壊れる」


 ルオラも俺も次の言葉がすぐに出なかった。


 ひと呼吸してから話を続ける。


「最後は確か、正しい使い方を見つけなければ、それが解らないうちは触ってはいけない。だったな。声の印象はどうだった?」


「初老の男性というか、落ち着いた印象でした」


「そうだな。そんな感じだった。リージュに関係あるんなら、ダークエルフ族に研究者が居たんだろうか? 分からないが…」


「内容は合っていましたか?」


「うん。間違いないと思う。二人で同じ伝言を聞いたんだ。そして、紋章は消えた」






 私が聞いた文は合っていたでしょうか。


 魔法で忘れられないようになっている気がします。一回だけ聞いて覚えるのは自信が無いですし、長い文章でしたが、覚えていましたね。詳しい事は後で教えてもらえるみたいですが、他に聞きたい事があります。


「ブロさんが居たんですか?」


「居たみたいだ。リージュがやっつけた」


 あの槍使いをダークエルフさんが倒したんでしょうか?


 私の見立てで、まあまあ実力があったと思います。それに、彼女にはろくな武器も無かったです。あの人、なかなかに実力があるのでしょうか…。

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