第43話 「夜を走る」

 俺は、探知魔法を使う事に集中する。


「もう近くまで兵士が来てるぞ」


 手順を決めておこう。俺の勘が当たるなら、この策を選べば効率がいい。


「ルオラ。捜索に来た兵士にわざと見つかって、森から外へ出て逃げて欲しい。兵士を振り切って、訓練場に入った柵の所で隠れて待っていてくれ。武器が木剣しかないけど、いけるか?」


「いけます」


「得意な槍じゃないけど、いいのか?」


「大丈夫です。誰かから途中で奪いますから」


 彼女はここで何度も訓練を受けて兵士を倒しているんだから、大丈夫だと思う。


「マイカさん。ルオラと一緒に行って、途中で二手に分かれて欲しい。上手く逃げたら、そのまま捜索隊側の兵士に紛れ込んでしまえ。元々そっち側なんだ。誤魔化せるだろう。それで俺達に協力した事がばれないで済む。と思う…」


「分かった。姉さんの助けになりたいし、それでいい」


「あの子供は、誰かに化けて必ず来る。俺は、あの子供から情報を引き出せるだけ出して、うまく黙らせて逃げるよ。何が目的か、まだ分かってないし」


「分かりました。お気をつけて」


 ルオラは本当に心配そうにしている。兵士と剣で戦う事よりも、あの子供と魔法勝負をする方が俺には向いている。そんなに心配は要らない。


「リージュは、近くに隠れていて欲しい。集合場所の柵のところは見てないし、合図をしたら一緒に逃げよう」


「マイカさんはいつから居るの? 兵士って何? 子供って何? ああもう、分かったよ。とにかく逃げるんでしょ? 途中でちょっとは説明してよ」


 リージュは何か不満そうだが、それでも素直で助かる。


「もし子供が追って来てなかったら、少し待ってから森を出て、柵のところに行くよ」


「分かりました。柵のところでずっと待ってます」


 ルオラも上手く立ち回って無事に逃げ切って欲しい。


「姉さんと一緒に何かするの、子供の時以来だ。ちょっと嬉しい」


 マイカは、よほどルオラが好きなのか? ルオラに大事にされたのか? 仲のいい姉妹なのだろう。彼女も無事に逃げて、お咎めを受けずに済んで欲しい。


「よし、始めよう」






 まずは私の仕事です。


 マイカと一緒に走り回るなんて、子供の頃に街で追いかけっこをした時みたいで、懐かしくて楽しみです。今は捕まったら大変ですが、笑みが零れているのが自分で分かりますし、マイカも嬉しそうです。


 兵士達は、一方向から集団になって森に入ったようです。


 一人ずつに分かれて来たら、まとめて追ってこさせるのが大変でした。松明を持って迫って来るので、向こうの居場所は簡単に分かります。ジオさん達の隠れている所から離れて兵士の方へ近づき、最初は見つからないように少しの間隠れていましょう。


 茂みの中に伏せて息を潜めていれば、簡単には見つかりません。


 本来ならば、私達は追われる恐怖に委縮するのでしょうが、本当に警戒すべきは目的の分からない子供と覆面の集団で、兵士達は単に捕まえにくるだけです。相手は大勢かもしれませんが、頑張りましょう。


 マイカも私も追手の兵士と同じ兜をかぶりますから、兵士からは誰だか顔が分かりません。


 ただ、それだと侵入者だという事が分かりにくいので、目立つように黄色と赤色の大きな布を首に巻きます。これで他の人と区別がつきます。あとは敵対的に行動すれば、追いかけてくると思います。


 マイカは、兵士の人数を何人って言っていましたっけ? あまり気にしませんが…。


 一番先頭の兵士が近づいて来ました。森の中は静まり返っていて、風の吹く時だけ木々が揺れる音がします。隠れて移動する時は、揺れる木々の音に歩く時の音を紛れ込ませるとよいのですが、松明を持っている兵士は音を立てて堂々とこっちに進んできます。


 彼らが音を気にしても仕方ありませんし、人数の利があるので当然ですね。


 あと五歩くらいの距離に迫ってきました。そろそろ始めましょう。


 立ち上がって距離を詰め、木剣で水平に薙ぎ払って相手の松明を叩き落とします。火の粉を散らしながら地面に転がった松明を拾って、ジオさん達と離れるように走り出します。マイカも同じようにやって、並んで走ります。


「居たぞ。侵入者はここだ」


 驚いた兵士が叫びました。予定通りです。


 森の外で待ち伏せされていると厄介です。ある程度は素早く進んで、森の終わりが近くなったら警戒しましょう。暗い中でマイカの方を見ると、こちらを見て大きく頷きます。暗くて表情は見えませんが、全部分かっている様子です。


 なんだか楽しいです。さあ、走りましょう。

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