第40話 「心配する姉妹」
私は、難しい作戦を考えるのは苦手です。
作戦の事は、ジオさんに任せましょう。私より得意そうですから。
思い返せば、宿から逃げる時は怖かったですね。私、あんなに高い所から飛び降りたのは初めてでしたね。よく見たら三階でした。ジオさんの魔法が無ければ、大怪我どころでは済まなかったですね。
例えば、たんぽぽの種の綿毛の大きなもの、私の背より大きなたんぽぽの種があったとして、それに掴まって飛び降りたとしたら、魔法が無くても安全に着地出来たでしょうか?
或いは、楓の実の羽根みたいなものの大きなものを持って飛んだとしたら、遠くへ飛べたでしょうか?
鳥や蝶の羽根を真似る方が簡単でしょうか?
誰か勇気のある人に空を飛ぶ研究をしてもらいたいです。羽根のような道具を作って実験で飛ぶのは勇気が要ります。いつか、人も空を飛べたら面白いですね。ジオさんもそんな風に思うでしょうか…。
俺が使っている風の魔法は、直接的な戦闘には向かないが便利な魔法だ。
応用が効くし、俺に合っている。例えば、火の種類の魔法だったら、宿の三階から飛んだ時に安全な着地は出来なかっただろう。風の魔法使いが数人で力を合わせれば、一人くらい空を飛ばせられるかもしれない。
魔法に関する知識は、出来る限り集めようと努力しているが、さっき会ったあの子供の使う幻の魔法は、本当に特殊な魔法だ。俺は、他に使える奴を見た事が無い。
しかし、風の魔法を上手く使えば、幻と現実とを見分ける事が出来る。ただ、それでも厄介な使い方をされると対応出来ないかもしれない。うまく弱点を見つけないといけない。
宿に居た時、彼女は幻の魔法を見抜いていたから、子供の相手をしてもなんとかしそうだが、魔法の特徴を観察するのは俺の方がいいだろう。
訓練場の兵士達が探しに来たら、その相手はルオラに任せるのがいいかもしれない。訓練場の地形には俺より詳しいはずだし、やはり兵士の相手は任せよう。
感覚では、一時間がまだ過ぎていなかった。そいつは気配を消して近寄ってきていた。
風の探知魔法で、そいつが森に踏み入る辺りから動きを読み取っている。手信号を使って声を出さずにルオラに知らせる。彼女は頷いた後、頭を低くしたまま、そいつの方向へ移動する。
俺達に武器は無いが、相手は一人だ。向こうの持っている武器によっては、不意を突いて素手で倒せるかもしれない。
ルオラが隠れていて、そいつが彼女を見つけられずに横を通り過ぎた後、俺が注意を引いてやる。そうすれば、背後からルオラが安全に攻撃出来る。
そいつが俺の近くまで来たので、声を掛ける。
「こっちだ」
視線を誘導すれば、後はルオラがやるだろう。
「待って、居るんでしょ? 姉さんでしょ? マイカです。待って」
俺はこいつの事を知らないが、戦う意思が無い事は分かった。若い女性の声は、はっきりと聞こえた。ここに居る事と俺達の待ち伏せを読んでいた事を思うと、軍人であると想像がつく。
「その声、本当にマイカですか?」
ルオラには、声に聞き覚えと心当たりがあったようだ。立ち上がり、相手に姿を見せる。マイカと名乗るそいつは、持ってきた荷物を地面に置いてルオラに近づく。僅かな月明かりでは、よほど寄らないと顔が見えないだろう。
抱き合えるくらいに近づくと、二人は両手をお互いの肩に乗せ、同時に声を出す。
「よかった」
「よかった」
俺には何者なのか分からない。ルオラに任せるしかない。
私がマイカと会うのは一年ぶりでしょうか。
聞きたい事がたくさんあります。
「マイカは、何故ここに居るのですか?」
「さっき、陣地で待機していたら、侵入者が居て、よく見たら姉さんにしか見えなくて…」
「陣地に居たって、あなたも軍に入ったのですか?」
「ルオラ姉さんにまた会いたくて。でも、本当はどこに配属されるか分からなかったから、今日会えたのは本当に偶然で…」
「そうなんですね。他の皆は元気にしてましたか?」
「入隊してから会ってないから、顔は見てないけど、大丈夫みたい。戦争の時は少しだけ食べ物に困ったって言ってたけど、姉さん達の仕送りのおかげで、周りの人達よりは楽だったって」
「それはよかったです。また会いたいですね」
「いや、今はそんな話じゃなくて…。なんで、こんな所に居るの? そっちの男の人は誰なの? 変な連中に追われてなかった?」
「ちょっとだけ追われてます。色々あったんですが、負傷して軍は辞めました。今は、あの男性にお世話になってます」
「ちょっと、ちょっと待って。そんなの予想外」
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