第34話 「いつもの考察」
俺は、ブロの居る中央の焚火に戻って来た。
この男は完全に寝ている。
それでも俺が変な気を起こして剣を抜いたら、気配を感じて槍を掴んで目を覚ますだろう。そのくらいの実力はあるに違いない。
また少しの間、考え事をしよう。
クローは、俺達に何をさせようとしているのか?
俺達に次の仕事を与えると言ったのは、何か利用する目的があって、手の届くところに置いておこうとしていて言ったのだろう。少なくとも、次の仕事までの間、俺達に危害を加える事はしないと思う。
あいつにとって俺達が何の役に立つかは分からないが、いつ次の仕事を頼まれるのか気にしておかないといけない。
あいつは、リージュの体の紋章の事を知っているのだろうか?
彼女を狙っているのだろうか?
彼女がクローと出会い、あの仕事を引き受けたのは偶然だと思う。彼女が特別な人物で、紋章も特別だったとしたら、あいつは彼女を森から連れて一緒に帰っただろう。
今、手元に確保していない事実が、彼女に対しての興味の少なさを表している。
およそ見積もっても、俺への興味と同じ程度の興味しかないと予想出来る。あいつは、紋章の事を知らず、彼女を狙っているわけではないと仮定しておこう。
宝石は一体何なのか?
今回の仕事に宝石は関わっているのか?
クローが持っているという流れ星の見える宝石。それにも実際に流れ星を呼び出す魔力が宿っているのだろうか?
それなら、相当に危険な道具という事だ。あいつが持っているべきじゃない。そして、クローが宝石を集める過程で争いが起きそうだ。いい予感はしない。
例えば、宝石が過去に流れ星が落ちてきたという事実を記録しているだけの魔法道具なら面白い。
遠い昔の人は、洞窟の壁画なんかで記録を残す事しか出来なかった。今は紙に文字を書き、本として記録出来る。壁画も本も、誰かを傷つけたりしない。
宝石だって、動く絵が見えるだけなら平和的な道具だ。どこかに街が出来た記念とか、初めて金鉱を見つけたとか、何でも記録しておけばいい。俺ならそんな風に使う。
あの時に宝石を覗いて思ったが、絵が動くと出来事が分かりやすい。宝石を覗くと過去の出来事の記録が見えるとして、そんな事が簡単に出来たら、学校の退屈な授業に使って欲しい。それこそ歴史の授業だって楽しくなるだろう。
そんな平和的なものなら良いと思うが、先日起きた事は、宝石に秘められた魔法を利用して人が傷ついた事実。宝石の魔法は、現実に悪い効果を及ぼしている。ただの本みたいな記録のための道具とは相容れないものだ。
あの宝石に秘められた、動物が大きくなる特殊な魔法は何だろうか?
誰が持っても同じように力が使えるのなら、今日のこの仕事にも関係している可能性はある。
ブロはともかく、ルオラには注意するように言っておいた方がいいだろうか?
知らない方がいい事もあるが、危険が及んでからでは遅い。もう少し様子を見てから伝えようか…。
宝石はいくつもあると言っていたが、他にはどんなものがあるだろう?
例えば、小さくなるとか?
それはいくら何でも、何の利点があるのか?
例えば、厩舎の家畜を遠くの放牧地に運ぶ時に使えば便利そうだ。他にはどうだろう?
途方もなくて想像が難しい。
少しの間、考えるのを休んで、装備を繕う。
鉄で出来た鎧と鎖かたびらを脱いで、破れていないか確認する。
鉄の部品が肌に当たると痛いので、肩や背の部分に厚い当て布のついた専用の下着を着けていて、その上に鎖かたびらを着ている。この布がよく破れるので、国王軍の屈強そうな兵士でも誰でも、不器用なりに自分で縫って直す。
俺がやっていたって面白くないだろうが、大きな男が細かい針仕事をしているのは見ていて面白い。誰も見世物のつもりではないのだが…。
今日のところは、布は大丈夫そうだ。留め金の錆を落としてから着る。
次に、剣を鞘から抜いて刃こぼれを見る。鎧もそうだが、錆びない剣を誰か作って欲しい。ドワーフ達が色々な金属を混ぜて合金を作っているが、まだ開発には至らないらしい。
技術が出来ても、最初は高くて買えないか…。なら、当分はこのままだ。
治療魔法を使う身として、武器を使わないで仕事が済めばいいといつも思う。
クローの目的は何だろうか?
赤い宝石の収集には、国王軍そのものが関わっているのか、それともクローの独断か?
宝石を集めて最後には、どうしようというのか…。
もし、宝石に特別な力があるなら、軍事利用出来る強力なものが何個もあってもおかしくない。クローが言っていた流れ星でも、大きくした動物でも、たくさんの敵を倒せるような兵器に利用出来る。
それが例え味方を巻き込むような事があっても、味方が願ったって止められないかもしれない。
クロー個人が使うとして、まかり間違えば、王に戦いを挑んで王の座を奪えそうだ。クローが野心家というのは十分ありそうだし、その事は警戒しておく必要がある。
やはり、あいつとは距離を置きたい。もしくは、こちらに手出し出来ないようにしておきたい。
国王軍が使うにしても、何が起きるか想像出来ない兵器の近くで戦うのは嫌だ。宝石を軍に持たせているのも怖い限りだ。宝石を誰が作ったか分からないが、どこかに眠らせておくのが一番いいのかもしれない。
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