第30話 「気丈さとからかい」

 宝石の事、クローの事、リージュの紋章の事、見張りの男の事、問題が増えて困る。


 少なくとも、彼女の体調不良が改善しないと街を移動するのは難しい。


 クローが変な気を起こさないうちはいいが、この街に居れば、クローから逃れられない。どうすればいいか分からない。


 窓から差し込む朝日、鳥達の声、気付けば朝になっていた。

 

 突然、リージュは勢いよく上体を起こす。すぐ傍に居た俺と頭同士をぶつけそうになったが、躱す事が出来た。危なかった。


「わたし、治りました」


 元気に言われても困る。額に手を当てると熱は引いている。紋章の事をどう説明しようか? 自分では気付いていないのか? なら、まだ隠しておこうか…。


「前から急に熱が出る事はあったか?」


「無いよ」


「森で毒虫にでも刺されたんだろう。左の脇腹が腫れていて、夜のうちに引いたようだ。部屋を出ているから、体を見て、他に怪我や腫れが無いか調べて欲しい」


 立ち上がって部屋を出ようとすると、リージュも立ち上がる。


「待って、ジオはこっちに居て」


「待て待て。困るだろ?」


「違う。手鏡が欲しいから、わたしの部屋に戻るよ。背中とか見えないし。報告するから待ってて」


「早く行って来い」


 見張りの男に動きは無い。待っている間、数分でいいから寝よう。


 戻ってきたリージュが言う。


「何も無かったよ」


「そうか。なら良かったよ」


 本人は紋章の事に気付いてないのか?


 本人には見えないのか?


 森から帰って二日経ってから効く虫の毒なんて、おかしいと思うが気にしないのか?


 気付いていて俺に言わないのか…。会って数日で彼女の性格なんて解らない。少し様子を見よう。リージュが何か言いたげだ。





 

 わたしは、ジオの顔色を見る。


 ジオが色々と心配しているのは分かっている。きっと寝ていないのも分かっている。でも、一応確認しておこう。


「それで…」


 ジオが黙っている。続けて言う。


「わたしが寝てる間に、見たでしょ?」


 ジオが口を開けて固まってしまった。続けて聞こう。


「触ったでしょう?」


「見てねえし。触ってもないわ」


 この数日で、冗談を言うような男ではないと分かった。やはり、この男、からかわないと面白くない。


「ふふ。怒らなくていいのに」


「怒ってねえわ」


「それで…」


「それで、なんだ?」


「何を隠してるの?」


 わたしはダークエルフ領の中でも田舎の出身者だから、森で注意しないといけない蜂や百足なんかは分かっている。毒にやられた自覚は無い。彼は何か隠している。


「いや…」


 嘘は言えない性格だから、ひと言だけで黙ってしまったか?


 あれこれ考えてから行動する性格のようだが、まだ考えがまとまっていないのか…。


「そっか」


 考えの整理が付くまで待ってあげよう。


「わたし、お腹すいた」


「分かったよ。朝飯だな。俺は食ってから寝るわ」


 体の具合は驚くほど良くなっていた。心配はかけたくないけれど、自分でもどうしていいか分からない。食事に行って、彼が寝ている間に病院に行こう。

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