第14話 夜明け前の襲撃

 俺は、探知魔法をずっと使い続けていた。


 夜が明ける前、まだ反応は無い。


 それでも俺は何か空気が重くなったように感じて、耳を澄ませる。物音はしない。鳥も虫も鳴いていない。風は無い。


 熟練した冒険者二人と軍人は、何かを感じたのか、目を覚まして体を起こす。俺と同じように耳を澄ませている。直感とは恐ろしいもので、これなら魔法も要らないなと思って、鼻で笑ってしまう。


 それぞれがそれぞれに、自分だけが目を覚ましたのなら偶然かと思うが、三人ともなら悪い予感が当たっていそうに思い、黙ったまま身支度を始める。俺の準備は出来ている。リージュを起こそう。


 荷物は持ち運べるように纏めるが、背負わない。


「何か来ているか?」


 クローが小声で聞いてきた。


「まだ何も。300フィートくらいの範囲には何も居ない。俺も胸騒ぎがしている」


 そう答えた。「あんた達も胸騒ぎがするんだろう?」とは、わざわざ聞かない。もし言ったら、「そうだ」と返事がありそうだが、異音を聞き逃さないようにして、きっと返さない。経験豊富な者同士の無言の会話だった。


 リージュも真似をして、荷物を背負わない。盾を手に持っていない事に気付いて、すぐに準備している。


 周りの森は暗く、悪い雰囲気だった。全員の準備が整ったのを確認し、俺はそれぞれの顔を順に見る。クローとエルフの二人は無言で頷く。


 それを見てすぐ、俺は焚火を足で踏み消す。


 明かりが無ければ、敵は俺達を見つける事が出来ずに引き返すかもしれない。放っておいて火事が起きる事で、こちらが不利になるかもしれない。火を点けたままにしておく事で周囲がよく見えるが、戦いながら薪を足す事は出来ないから、やがては下火になり消えてしまう。


 利点も欠点も両方あるが、三人の顔には火を消せと書いてあった気がした。案の定、俺を制止する声は掛からない。向こうからしたら、俺が火を消すぞと言ったように感じたのだろう。

 

 リージュは、戸惑いながらも熟練者の判断に任せるといった表情で数回頷いていた。


 クローは指示をしなかったが、俺とエルフ二人が移動し、クローを含んだ四人で四角形の陣形を作った。どの方向から襲われても対処出来るようにするため、四人がそれぞれ外向きに立ち、周囲を警戒する。


 エルフ二人とは何の合図も無かったが、動かなかったクローとリージュの位置を利用し、リージュを中心に置いて守る形となった。


 本来であれば、リージュも一緒に周囲の警戒に立ち、五角形の陣形を作るべきだが、クローは何も言わなかった。頼り無いリージュに警戒の一角を任せる事に抵抗があるのだろう。


 リージュ自身も邪魔をしないのがよいと判断したようで、その場を動く様子が無かった。今はそれでいい。


 暗闇に目が慣れると、周囲の木や岩が見えてくる。遠くまでは見通せない。見える範囲に動くものは無い。小さな物音さえ無い静かな時間が過ぎて行く。


「来たぞ。分からないが、大きいのが四つ来ている」


 そう言った俺を四人が見る。すでに方向を指差しているから、振り返って俺の指の方向を確認したエルフの二人は、陣形を変えようとして指示を待つ。クローが声を出す。


「敵は逃げるかと思ったが、攻める方を選んだようだ。自信があるんだろう。しかし、昨日、君らの実力はよく分かった。操られている動物が連携しないように一匹一匹を引き離したい。各自で誘導して一対一で撃破してくれ」


 それを聞いて、リージュを除いた俺達は、横並びの陣形になる。左から順に弓使い、クロー、俺、剣士の並びになり、互いが同時に剣を振っても当たらない距離まで離れる。


 四人の背後に居るリージュに手信号で小さく合図する。止まれと送ると、その場で真下を指差して頷いている。その場所で控えていて欲しい。うまく伝わった。


 敵の動きが変わったので、すぐ叫ぶ。


「四つはそれぞれ速度が違う。左と右から挟み撃ちみたいに早いのが来る」


 それを聞き、弓使いと剣士はお互いの安全を願って顔を見合わせると、陣形を離れていく。指示通りに一匹ずつ誘い込んで、各個撃破するようだ。


 トカゲかバッタか、弓使いの方へ行ったのはどっちだ?

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