第11話 表面化した不安

 離れた所から、大きな声でエルフの剣士が聞いてくる。


「この二匹だけか?」


「他に怪しい影は無い」


 俺は探知魔法で周囲を探り、すぐに答えた。


「その子は大丈夫なの?」


 弓使いが心配そうにしている。


「熱中症だ。休ませないといけない」


 リージュの様子を伝え、こちらからも聞く。エルフの意見を聞きたい。


「この…」


 言いかけてから、ひと呼吸して間を開けて話す。エルフの二人は、俺の顔を見ながら次の言葉を待っている。


「このトカゲは、こんな大きさの奴が居ても納得出来ない訳じゃない。もっと南の温かい地域に住んでいそうだ。でも、バッタは明らかに異常だ。こんな大きいのが居る訳が無い」


「その通りだと思う」


 剣士は、重い表情で俺に言葉を返した。そして弓使いの顔を見て、そちらに意見を求める。


「何だと思う?」


 少し考えた後に返事がある。


「分からない。けれど、どっちも僅かに魔力を感じる」


「魔法が何か影響しているって事か?」


「分からない」


 二人は黙って考えるが、答えは出ないようだ。クローが重い口調で話に加わる。


「敵は、動物使いだ」


 俺達は意味をすぐに理解出来ず、言葉が出なかった。


「特殊な魔法だな。聞いた事はあるが、とんでもなく厄介だぞ」


 剣士は、僅かに戸惑いを滲ませて答えた。


 捜索隊の隊長として、クローが言う。


「傭兵君、その娘をなんとかしろ。次の行動が出来ない。今日はこの辺りで一泊する。朝早く起きて、追跡を続ける」


「了解した」


 俺は返事をしたが、リージュの回復は本人の体力次第の部分が大きく、自信は無かった。


 森の中が暗くなったように感じたのは、太陽を雲が一瞬隠したからか、それとも皆の顔が不安で暗くなったからか…。


 隊をまとめるクローが何か言って不安を払拭すべきだが、あいつは何も言わない。あいつの顔色に大きな変化は無いように見える。






 自分は、苛立ちを隠していた。


 今の動物二匹を使って、盗賊は逃げる時間を稼いだのかもしれない。それならば、すぐに追いたい。


 しかし、手段を選ばずに事を運ぶには、まだ早過ぎる。相手が操る動物は、他に何匹も居るだろう。通常の大きさであっても厄介なのに、それらを自分一人で倒しきるのは難しい。集めた四人には、まだ働いてもらわなければならない。


 万が一の怪我を考えると、傭兵の男が特に重要だ。風の魔法まで使えるとは思わなかったが、この男は役に立つ。


 やはり宝石は特別品だ。特殊な魔法を宿しているのだろう。動物を大きくしているのか…。


 欲しいな。


 宝石をなんとかして手に入れる。目的は必ず達成する。そのために少し我慢が必要だ。


 ダークエルフは置いて行っても構わないが、治療兵士として傭兵が許さないだろう。死んでしまったら諦めるだろうが…。






 俺は、リージュの手当てを続けていた。


 その間に、弓使いと剣士が辺りを見回って休める場所を探してくると、そこへ全員で移動する。弓使いがリージュをおぶって移動する。剣士が弓使いの荷物を持ち、俺がリージュの荷物を運ぶ。


 リージュの荷物は重い。何か余計な物を持って来ていて、そのせいで重くなっている気がする。出発の前に助言すべきだったか。


 二泊目の夜を過ごす。水が無くなりかけていたので、川の水を煮沸消毒するため、やむを得ず火を焚く。煙が出て居場所が敵に分かるが、水を補給する必要がある。


 先ほど起きた事が全てで、改めて情報を共有する必要は無い。会話も無く、保存食で食事を済ませる。各々が考え込んで、事態を把握しようとしていた。


 夜の見張りは、まず弓使いが担当する。その後の明け方までが俺の番となった。


 弓使いが声を掛けてくれる。


「手当を替わるわ。少し眠りなさい」


「有り難う。交替になったら起こして欲しい」


 弓使いの気遣いに感謝して少し眠ろう。

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